クラウドに仕切り値はない、付加価値のない代理店モデルは破綻~アジャイル開発×クラウドがもたらす変化(前編) Scrum Gathering Tokyo 2011
Amazonクラウドのエバンジェリスト玉川憲氏と、アジャイル開発に詳しく、アジャイル開発に特化した受託開発ビジネスを開始したソニックガーデン社長の倉貫義人氏のトークセッションが、10月22日に開催されたアジャイル開発手法「スクラム」を学ぶイベント「Scrum Gathering Tokyo 2011」の無料ワークショップで行われました。
アジャイル開発とクラウドには「正直である」という共通点があること、そしてこの2つを使わずにネットビジネスで勝つことなど難しいであろうことなど、お二人の本音が次々にとびだしたセッションの様子を紹介します。
開発と運用の一体化は「パラダイムシフト」を起こす
倉貫 私は一生の仕事をプログラミングにしようと思ってTISに入りました。ところが会社に入るとデスマーチのプロジェクトなどに投入されて、どうしようと思っていたところに、平鍋さん(アジャイル開発の第一人者 平鍋健児氏)に会って、XPやアジャイル開発に会って、プログラマを仕事にしようという自分の考えは間違ってないんだと思ったんです。
それで社内でアジャイル開発をやろうと思ったら、賛同者ゼロ。
社内で若造がアジャイル開発を広めようとしても相手にされなかったのですが、トラブルに巻き込まれているプロジェクトに投入されたときに「朝会しましょう」とか「振り返りしましょう」とかアジャイルとは言わずに提案していったんです。そうやって少しずつ社内でも賛同者が増えました。
だけど、要件とお金が決まっている受託の開発ではアジャイル開発はうまくいかないんだ、顧客からリスクを丸投げされるのがだめなんだ、と思ったのがだいたい2005年。サラリーマンの宿命でチームを解散させられたりして、もう会社を辞めようかと思ったのですが、その前に好きなことをしようと思って。自分たちでビジネスを作ったらチームも解散されないだろうと思って、クラウドでソフトウェアを提供する、サービス業をする、というビジネスを(社内で)始めました。
しかし所属している大手SIerとしての自社は製造業の論理でビジネスを回しているのに、われわれのチームはサービス業としてやっている。そうすると評価も何も合わないね、ということで(数カ月前に)社内ビジネスをMBOして独立しました。
独立してクラウドで収益はあるのですが、新しいサービスを作っていくのにはお金がないということで、受託開発もすることにしました。ただし納品しない受託開発をしようと。それってどういうことかというと、クラウドでの開発案件だけをやる。そして開発と運用を一体化して月額料金でやると。詳しくは「楽天テクノロジーカンファレンス2011で話すので来てください。
開発と運用の一体化は、これまでの納品するための開発とは違う、パラダイムシフトが起きます。
「バグが出ないようにする」ではなく、「バグはすぐ直せるようにする」
「サーバが落ちないようにする」ではなく、「落ちてもすぐ復旧できるようにする」
そういう風に考え方を変える必要がある。すると、クラウドにしたりアジャイル開発をすることになる。こういうことで、私の会社「ソニックガーデン」はアジャイル開発とRubyとクラウドで成り立っていると。
もちろんクラウドはAmazonさんのAWS(Amazon Web Services)を使っています。
玉川 Amazonの宣伝までしていただいてありがとうございます。
私はいまはクラウドのエバンジェリストをしていますが、もともとは研究部門にいて、そのあとIBMのラショナルでアジャイル開発のエバンジェリストをやっていました。
で、アメリカにいたときにAWSを初めて使って、そのとき背中に悪寒が走ったんです。これはITを大きく変えるなと。で、日本法人を立ち上げるときにたまたまお声がかかって、それで日本にきちっとした形でクラウドを広めたいなと。
これまでは、サーバを注文したら見積もりが来て納期が来て、データセンターに納品して電源入れて空調入れてOSインストールして、という手順が、AWSのクラウドではボタンを押して数秒待つあいだに全部できあがる。これはベンチャー企業だけでなく、日本の企業が世界に出るときにも大きな力になると思いました。
クラウドがIT業界に与えた影響とは?
玉川 現在という時代背景に、クラウドが持ち込んだ衝撃はとても大きいものがあります。
米国のベンチャーキャピタリストの話ですが、10年前にオープンソースが登場したことで、ベンチャー企業ではソフトウェアライセンスにかかる費用が90%も削減され、いまAWSのようなクラウドが出てきてインフラの運営費用が90%も減って、これで細かくいろんなところに投資できるようになったと。
倉貫 私の以前の新規事業プランでは、ビジネスがうまくいくとサーバ代が数億円かかりますと、でもそんなの会社で通るわけがないんですね。ところがAWSというのを知って、ものすごくローコストで事業が始められることが分かった。実際、ソニックガーデンが立ち上がったのはAWSのおかげですね。
玉川 倉貫さんはアジャイル開発とクラウド、まさに両方やっていますね。
倉貫 アジャイル開発でいちばんうまくいかないのって、実はハードウェアを買うところだったんですよ。昔は「システムができました、動くところを見てください」とお客さんに言うところでサーバ買わなくちゃいけなくて、それで待つことになった。
ところがクラウドだとすぐに見てもらえる。
玉川 キャパシティプランニングがなくなったもの大きいですね。これまで見積もりして、余裕を持たせるために上乗せしてサーバを買ってもらって、その結果として使ってないサーバがたくさんあって、というのがなくなった。
倉貫 サーバの価格は下がっていくものなのに、システムを使い始める最初の時点で必要なだけ買わなくてはいけなかったというのもおかしかったですね。
玉川 スモールスタートだけどスケールアウトできる、というのがお客様の要望。贅沢な要望ですね。
倉貫 その贅沢が解決できるのがクラウドですよね。
クラウドとアジャイルは「正直」
玉川 クラウドとアジャイルは「正直」なところが似ていると思います。例えばアジャイル開発だと「できるふり」をせず、できなかったら「できません」と正直に申告する。AWSだと価格が完全にフェアプライスで料金を公開していて、使った分だけお金がかかると。
倉貫 いままでのSIerで何がイヤかというと、見積もりでやっぱりバッファを積んじゃう。あるSIerの人と話していて面白かったのは、開発に対する人月の見積もりが、社内用と社外用で違うんですよね。それはみんな分かっていることなんだけど、嘘つきですよね。そうすると顧客との信頼関係はなくなってしまう。でも、顧客との信頼関係がないとアジャイル開発は成り立たないですよね。
玉川 Amazonでも「クラウドで仕切りはいくらですか?」ってリセラーや代理店の方に聞かれるんです。でも「仕切りはありません。だから付加価値をご自身で付けてください」と話しています。単純な代理店モデルは破綻するんですよ。
クラウドでSIerの受託開発はどうなる?
玉川 ここで「SIerの受託開発モデルはどうなるのか」について話たいと思います。さきほど倉貫さんの自己紹介にもありましたが、納品のない受託開発をしていらっしゃると。
倉貫 これまでの受託のように、要件もお金も決まった中ではアジャイル開発はできないと思いました。要件もお金も一括で決めて、最後に納品する、リスクを開発側が追うモデルではだめなんだと。
じゃあ僕たちがやってる「納品しない受託開発」ってどうするのかというと、そこに登場するのがクラウドです。お客様にはURLを渡すだけで、ドキュメントも渡さず、そこで開発中のモノを見てくださいと、それが私たちの受託開発ですと。
玉川 そうすると最初はお客様にどう思われるんですか?
倉貫 ぽかんとされます。「これだけのことをいつまでにしてくれるんですか?」って聞かれるのですが、「定額ですし、お約束はできません」というのが正直なところですね。
玉川 でもクラウドを使った受託でも難しいところがあって、まずお客様自身が、プラットフォームとして利用するクラウド業者に申し込んでもらう必要がありますね。
倉貫 そうですね。いままでの受託開発はハードとソフトをセットで請け負っていましたが、クラウドではハードウェアの部分はお客様でやってください、となる。(先ほど玉川さんが言ったように)仕切りがありませんからね。
玉川 もちろん、これまでの受託モデルと似たような形でクラウドを利用することもできます。例えば、オンプレミスにクラウドを組み合わせて バースト時にも保証するとか、そのあたりが受託でのクラウドの落としどころにひとつかもしれませんね。
倉貫 個人的にはそれは面白いやり方ではないですね。そこまでやるならクラウドでいいじゃないかと。
≫続きます。アジャイル開発とクラウドじゃないとこれから勝てない~アジャイル開発×クラウドがもたらす変化(後編) Scrum Gathering Tokyo 2011」へ。
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