クラウドでSIerのビジネスはどう変わるか? 今年もセールスフォースの展示会場に飛び込んで聞いてみた
クラウドによってSIerのビジネスはどう変わるのでしょうか? それを知るために昨年、セールスフォース・ドットコムのイベント「Cloudforce」の展示会に飛び込み、出展しているSIerの方などに直接話を聞きました。
そのとき聞けたのは、クラウドを利用したシステムではハードウェアの費用やインストール費用などが不要になるため、クラウド案件は従来のシステム構築案件と比べると価格が2桁も下がることがある、というSIerの話でした。
あれから1年。今年も同じイベント「Cloudforce 2010 Japan」が開催されたので、展示会場に飛び込んでSIerの方などから話を聞きました。
今年は昨年よりも多くのSIerが自社のソリューションを展示しており、クラウドの浸透がより進んだことを伺わせます。そしてどの会社も、クラウドをパッケージビジネス参入へのチャンスと捉えていました。
手離れがよくて連係も容易
最初に話を聞いたのは、保育園などでの給食の献立登録や栄養計算などができる給食管理システムをクラウド上に構築した、ブレインハーツの谷川耕一氏。ブレインハーツは十数人の小規模SIerです。
谷川氏は、クラウドの上に構築したソフトウェアは手離れがとてもいい、と話してくれました。「通常のパッケージソフトウェアでは、売れば売るほど、後のサポートが大変になる。使うのは管理栄養士さんなので、PCの故障や間違ってデータを消してしまったときなどでもいちいち現場へ出向くことになる。われわれのような規模の企業では、販売し過ぎるとそれに追いつくサポート体制が組めなかった」
しかしクラウドなら「バックアップもクラウドでやってくれるし、お客さんのPCが壊れてもデータはクラウドにあるので問題ない。管理栄養士さんもWebブラウザがあれば職場でも自宅でも使えるので便利」と、クラウドだからこそ積極的に展開するビジネスが可能になるとのこと。
さらに「他社でクラウド上に展開している介護支援システムと連係し、介護する人ごとの栄養管理もできる機能も作った。同じクラウドに乗っているので簡単に連係できた」と、クラウドにアプリケーションを展開するもう1つのメリットとして、アプリケーション連係を指摘されました。
インストールしに行かなくてよい。経営の安定も
セールスフォース・ドットコムの研修と、クラウド上の不動産業向けの顧客管理・営業支援システムを出展していたのは派遣型SIerのケーピーエス。
同社は不景気で派遣先から社内に人が戻ってきてしまったたため、それらの社員に向けてセールスフォース・ドットコムの社内勉強会を開始。それを社外向けの研修に発展させたところ、本家セールスフォース・ドットコムのセミナーよりも低価格なこともあって好評なのだそうです。不景気で発生した環境を、うまくクラウドの成長に結びつけた例でしょう。
不動産業向けのシステムでは「クラウド上に構築したおかげで、機能を追加してもいちいちインストールしに行く必要がなく、お客さんの使いやすいシステムが提供できる」という利点を感じており、「従来よりもパッケージビジネスに参入しやすい」環境ができたと評価していました。
名古屋を拠点とするレッティは、セールスフォース・ドットコム上のグループウェアを出展。システム開発案件がクラウドに移行することで案件単価が下がるのでは? と聞いたところ「もともと中小の開発案件は少ない予算から捻出してもらっているものだったので(それほど影響がない)。しかしその案件が途切れてしまうと自社の雇用が安定しなくなってしまう。それなら、金額は小さいけれど毎月利用料金が課金できるクラウドのモデルの方が会社が安定する」と答えていただきました。
レンタルサーバで知られるリンクは、クラウドに対応したコールセンター向けのソリューションを展示。同社はSIerではなく、もともとオープンソースのPBX用ソフトウェア「Asterisk」をレンタルサーバに乗せたことをきっかけにして、コールセンター向けのソリューションへと発展したとのこと。
公衆回線との接続とVoIPなどの機能は自社のサーバ群で実現し、顧客管理の部分はセールスフォース・ドットコムのクラウドと連係することで、同社がアプリケーションを用意しなくともソリューションを構築でき、顧客もPCさえあれば利用できるのがメリットだと語ってくれました。
専門の事業部が急成長で独立
このように、展示会では中小中堅のSIerらがクラウドを利用したアプリケーション市場へ参入し、積極的に展開しようとしている前向きな話を聞くことができました。これはこの1年で起きてきた新しい変化だと感じます。
彼らが指摘したクラウドのメリットをまとめると、次の3つでしょう。
- アフターサポートが容易なため、小規模SIerでも多数の顧客に販売できる
- 複数のアプリケーションを連係したソリューションが構築しやすい
- 月額課金は経営の安定が期待できる
これらのメリットはセールスフォース・ドットコムのPaaS/SaaSを前提としたコメントをまとめたものですが、ほかのPaaS/SaaSでも同じことがいえると思います。
さて、こうした環境を活かし、クラウド専業ベンダーとして飛躍している企業の1つが、クラウド対応開発ツールを展示していたテラスカイです。
テラスカイは、もともとはIBM特約店であったザ・ヘッドのソリューション事業部として2003年にクラウド関連のビジネスに参入。その後、ビジネスが成長し2006年に独立してテラスカイとなりました。
そして先月2010年9月にはクラウド事業拡大を目的として、同社にNTTソフトウェアが資本参加を発表しています。
クラウドビジネスを始めるときに既存のビジネスとは独立した部門を作る方法は、他社にも参考になるのではないでしょうか。
大規模ユーザー案件では「コストが高い」ケースが多い
さて、今回の中小中堅SIerがクラウドに参入する文脈とは違う発言を、大手情報子会社の担当者から聞きました。最後にそれを紹介します。
クラウド案件で「大規模なユーザーでは、長期で見た場合にコストが高いと尻込みするケースが多い」というのです。
パッケージソフトの導入では最初にハードウェアやソフトウェアの費用が発生するため、イニシャルコストを比べれば圧倒的にクラウドの方が安くなります。しかし、クラウドでユーザーあたりに毎月かかるコストを5年程度の長期で計算すると、トータルコストはクラウドの方が高いと考えるケースが多いそうなのです。
「だから提案では、どれだけ月額料金を値引きをするが頭を悩ませる」とのこと。大規模ユーザーとはどれくらいからですか? との質問には「数百ユーザーから」とのことでした。思ったより小さい数字に驚きました。
案件ごとの単価が2桁も安くなるというSIerにとってのクラウド、サポートが容易になり積極展開しやすい中小SIerにとってのクラウド、長期で見ればオンプレミスより高くなるという大規模ユーザーにとってのクラウド。視点が変わることによってクラウドのメリット、デメリットにはさまざまな見え方がありますし、それらはIaaS、PaaS、SaaSなどクラウドの種類によっても異なってくるはずです。
しかしどの立場であってもクラウドの影響を無視することはできなくなっています。メリット、デメリットを見分けていかに自分のビジネスに活かしていくかが重要。それぞれのコメントには、参考になるものがあったのではないでしょうか。