呼びかけ:「SAP」をSocial Application Providerの略として使うのはやめませんか
このエントリは広くITに関わるブロガー、ジャーナリスト、メディア、広報、マーケティングなどのみなさんへの呼びかけです。
呼びかけの内容
ミクシィやグリー、モバゲーといったソーシャルネットワークの上で、ゲームなどのアプリケーションを提供する企業や組織、個人などをSocial Application Provider(ソーシャルアプリケーションプロバイダ)と呼ぶようになっていますが、その略語として「SAP」が使われている文章を最近目にするようになりました。
しかしこの「SAP」を、Social Application Providerの略語として使うのはやめませんか?
これが僕の呼びかけです。理由を以下に示します。
略語SAPをやめよう、という呼びかけの理由
理由1:混乱しやすい3文字略語を増やすことになる
SAPはすでに多くの方がご存じのように、ERPなどで有名なドイツの企業SAPの名称としてIT業界では広く知られ、使われています。同じIT系の用語としてSAPが別の意味でも使われるようになれば、また1つ混乱しやすい3文字略語を増やすことになります。
IT系の文章にたずさわる者の一人として、こうした混乱をできるだけ防ぎたいというのが最大の理由です。
理由2:日本国内独自の略語である
しかも、Social Application Providerの略語としてSAPという表記を使っているのは、どうやら日本国内だけのようです。TechCrunch Japanの記者として活躍されているSerkan Toto氏は、僕の呼びかけを受けたTechCrunch Japan西田編集長からの問い合わせに次のように答えています(ちなみに、SNSもそうだと指摘されていますね)。
@nishida Yes, "SAP" is Japan-only, similar like "SNS" for social networking service.
僕自身も検索を繰り返しましたが、海外で略語SAPを使っている文章はみつかりませんでした。
海外ですでに広く使われている略語が日本にそのまま入ってくるのであれば、それはやむなしと思いますが、そうでないのであればむやみに国内独自の新たな略語を作らなくてもいいのではないかと思います(国内で略語SAPが使われ始めた経緯については、坂本英樹氏のエントリ「ソーシャル ゲーム プロバイダーはSGPであり、SAPと呼ぶのは止めましょう」に詳しく書かれています)。
理由3:いまならまだ大きな損失の前に止められるはず
まだ略語SAPの表記はこれから普及していく段階だろうというのが僕の認識です。いまならこうした呼びかけをしても、すでにその表記に依存している人や組織、イベント、文章なども多くないはずで、大きな混乱や損失を引き起こさないだろうという想像しました。
その一方で、この呼びかけに多くの関係者が賛同してくれることにより、混乱の基となる3文字略語を減らせるメリットがあるはずです。この両方を自分なりに天秤に掛けて判断し、メリットの方が大きいと考えています。
理由4:業務アプリケーションとソーシャルアプリケーションはいずれ交わる
正直、このようなネガティブキャンペーン的な呼びかけには気が引けます。それに現在のところ、ERPのような業務アプリケーションについて語る人と、ソーシャルアプリケーションについて語る人はおおむね異なるクラスタに属しており、略語がどうだろうと実害はないと考えてもおかしくありません。
しかしいま、エンタープライズITの大きな流れはコンシューマライゼーションにあります。両者は必ず同じ文脈で語られるようになります。すでに一部ではそうなっています(例えば、ミクシィとセールスフォース・ドットコムは協力を発表しています)。そのとき、SAPという日本独自の略語の普及が、多くの読者にとって混乱をまねく環境につながってしまうだろうと危惧するのです。
これらの理由により、「SAP」をSocial Application Providerの略として使うのはやめませんか、という呼びかけを実行に移すことにしました。
できれば、このエントリについてツイートしたり、ブログで書いたり、ブックマークしてコメント書いたり、いろんな方法で意見を表明していただけると幸いです。
ツイッターで呼びかけました
このエントリは広く呼びかけるために書いていますが、それに先立ち先週の土曜日、8月21日にツイッターで以下の方々に呼びかけもしました。
その前に僕の考えのまとめ。1)略語SAPは、企業名SAPとまぎらわしく、よい略語と思えない 2)海外でこの略語を使っているならまだしも、国内独自略語であり、まだ定着もしていない 3)上記の理由から、略語としてのSAPを使わない方向で働きかけることは社会的に有益と判断する。議論歓迎
1人目。TechCrunch Japanの西田編集長> @nishida さん。SAPという略語は使わない方がいいのではと新野は提案するのですが、どうすか。 http://bit.ly/d68sRt http://bit.ly/9Mkavo
2人目。TechWaveの湯川さん @tsuruaki 勝手に指名してすいません。 SAPという略語は使わない方がいいのではと新野は提案するのですが、どうすか。 http://bit.ly/d68sRt http://bit.ly/9Mkavo
上記お二人は知り合いでもあり、この分野で影響力のあるメディアを運営されていたので呼びかけさせていただきました。また、ミクシィ、グリー、ディーエヌエーには知り合いがいなかったので、以下のようにオープンに呼びかけさせていただきました。
ひとまず。オープンによびかけ。 ミクシィとかグリーとかディーエヌエーの方。SAPという略語は使わない方がいいのではと新野は提案するのですが、どうすか。 http://bit.ly/d68sRt http://bit.ly/9Mkavo
そして西田さんと湯川さんからはさっそくご返事をいただきました。ありがとうございます!
みんなサップと読んでいます。日本だけか確認しますが、当事者の間では定着しています。確かに言葉としてまぎらわしさはありますね。僕は言葉にこだわりがないので、違う表現を考えてみます。RT @jniino: SAPという略語は使わない方がいいのではと新野は提案するのですが、どうすか。
念のため補足すると、西田さんのこの発言のあとで、Serkan Toto氏の前述の発言がありました。つまり、日本だけであると。
@jniino 僕は使ったことないすね。これからもないように思う。
湯川さんは、もともと使っていらっしゃらなかったようです。
そのほか多くの方から、僕のツイートへのご賛同をツイッターでいただきました。反応していただいたみなさま、ありがとうございます。
さらに多くの方がこのエントリをご覧になって、略語SAPについて考えてもらえればと思っています。
代替案はないのか?
略語SAPを使うべきでないと提案しておいて、では略語SAPの代替案はないのか? というご質問もあると思います。この呼びかけに略語の代替案を含めなかったのは、議論を代替案の略語の是非にまで広げず、いま使われている略語SAPそのものの是非にフォーカスしたかったためです。
ちなみに海外では、略さずにそのままSocial Application Providerとするのが普通だという情報をいただきました。僕も、無理に略語を作らずにフルスペルで書く、もしくはソフトウェアベンダとかコンテンツプロバイダ(CP)とかISVなどの既存の一般的な用語で代用できるのではないか、と思っていますが、どう表記するかはもちろんそれぞれの方の見識に頼りたいと思います。
追記:この呼びかけに対する経過報告を記事「経過報告:「SAP」をSocial Application Providerの略として使うのはやめませんか」に掲載しました。
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