動き出すSAPのクラウド戦略。セールスフォース対抗の「SalesOnDemand」も明らかに
SAPのクラウド戦略、同社の言葉でいえばオンデマンド戦略がはっきりと動き出しました。同社のオンデマンド戦略の柱は、既存のSAP ERPユーザーがスイッチを切り替えるように簡単に機能の一部ずつオンデマンドに移行できる「シングルソリューションアーキテクチャ」を採用するということ。
また、セールスフォース・ドットコムの「Salesforce Chatter」に対抗するような開発中のSFAサービスの画面も明らかになりました。
オンプレミスとオンデマンドのシングルアーキテクチャ
現在SAPには3本のオンデマンド製品ラインが存在しています。1つ目は中堅企業に向けたビジネススイートの「Business ByDesign」、2つ目はビジネスインテリジェンスを提供する「BusinessObjects OnDemand」、そして3つ目が「CRM OnDemand」「E-Sourcing OnDemand」「HCM On Demand」などが並ぶ大企業向け(ラージエンタープライズ)オンデマンドのライン。
同社の主戦場は、当然ながら3つめのラージエンタープライズにあります。
そのラージエンタープライズオンデマンド担当の執行副社長、John Wookey氏は、約1年半半年前までオラクルでE-Business SuiteやFusion Middlewareなどを担当してきた人物です。まずは彼が昨年6月10日にアムステルダムで行われたSIIA On Demand EuropeでSAPの具体的な戦略を紹介しています。
Wookey氏が説明するSAPのオンデマンド戦略は次の3つからなります。
- われわれの顧客にベストなオンデマンドを提供する
- SAP Business Suiteの強みを活かす
- 次世代のオンデマンド技術にフォーカスする
つまり、既存のSAP ERPを含むSAP Business Suiteの顧客に対し、自社製品の強みを活かしつつ、最新技術を用いたオンデマンドを提供するというのです。
その技術的な要素となるのが「シングルソリューションアーキテクチャ」。これは、既存のSAP Business Suiteに対して同社のOnDemandサービスを、ビジネスプロセスの統合、データの統合、ビヘイビアコンシステンシー(使い方や設定などの一貫性)を実現し、「OnDemandを、Business Suiteの論理的なエクステンションにする」(Wookey氏)というアーキテクチャ。
これにより、既存のアプリケーションの顧客はBusiness Suiteのある機能を簡単にOnDemandへと切り替えることが可能になるとのこと。オンプレミスの業務アプリケーション市場で大きな強みを持つSAPが、その顧客をそのままオンデマンドへ移行させようとうする大胆な、しかし同社らしい戦略です。
ただし、OnDemandでカバーする予定の領域は、CRM、ソーシング、契約管理、経費精算管理、人事管理と行ったクリティカルではない領域を中心としています。基幹業務は引き続きオンプレミスで、という同社のオンプレミス戦略もここから浮かび上がってきます。
「SalesOnDemand」はSalesforce Chatterの競合
そしてSAPは新たなSFA(セールスフォースオートメーション)サービスとして、「SAP SalesOnDemand」を開発中であることも明らかにしました。
そのコンセプトは「Facebook for business」であるとし、公開されている画面を見るかぎり、TwitterやFacebook、あるいはSalesforce Chatterのようなタイムラインを中心としたユーザーインターフェイスになっています。
SAPはサイベースを買収することによって、業務アプリケーションをモバイルデバイスからも利用できるような開発を進めています。SalesOnDemandも(当然ながらそのほかのオンデマンドも)、モバイル用ユーザーインターフェイスが用意されることでしょう。
ユーザーインターフェイスといい、モバイル対応といい、「Facebook for Business」というキャッチフレーズといい(Chatterは、セールスフォース・ドットコムCEO マーク・ベニオフ氏の「なぜエンタープライズソフトウェアはFacebookのようにならないのか」という考えの基に開発されたもの)、SAPのSalesOnDemandは、セールスフォース・ドットコムのChatterとぶつかるサービスになるであろうことは想像に難くありません。
ただし問題は提供時期です。SAPはこうした一連のオンデマンドサービスの最新版がいつ提供されるのか、まだ発表していません。これまでも同社はクラウドで他社と比べて出遅れていると評されてきました。果たしてどのようにキャッチアップしてくるのかが次のポイントになるでしょう。
それにしても、いま大手企業から発表されるコラボレーションツールはいずれもマイクロブログ形式のものばかり。先週お伝えしたシスコの「Cisco Quad」もそうでした。次の記事では、そうしたマイクロブログ形式のコラボレーションツールをまとめてみます。
(追記 6/21:Wookey氏のプレゼンは昨年の6月でした。当初今年の6月と誤解していたので、本文に昨年の6月と明記しました。SalesOnDemandの画面は今年の先月に明らかになったものです)