SAP、脱オラクルへのロードマップ。インメモリデータベース「HANA」を発表
業務アプリケーション大手のSAPは、「破壊的テクノロジー」(同社バイスプレジデント 福田譲氏)として、従来のデータベースよりも高速に大規模データ分析を行えるインメモリデータベース「SAP High-Performance Analytics Appliance」(HANA)を発表しました。製品は、パートナーであるIBMもしくはヒューレット・パッカードのハードウェアに組み込まれたアプライアンスの形で提供されます。
HANAの今回のバージョンはデータ分析を主な用途とするOLAPエンジンとして提供されますが、将来のバージョンではOLTP機能も備え、ERPのバックエンドデータベースの用途も想定されています。SAPはこれまでERPのデータベースを事実上オラクルやマイクロソフトに依存していましたが、自前主義へと舵を切ることになります。
インメモリデータベースでOLAPとOLTPを統合
インメモリデータベースはすでにオラクルのTimesTenやIBMのeXtreme Scaleなどが知られ、製品として販売されています。
これらの製品がOLTP性能の向上のためにインメモリ技術を用いているのに対し、SAPが発表したHANAでは、OLAP性能の向上にインメモリ技術を用いる点が1つ目の特徴であり、さらにインメモリ技術を用いてOLAPとOLTPを統合して1つのデータベースエンジンで実現しようとしている野心的なビジョンこそ、最大の特徴といえるでしょう。
技術的に見ると、HANAはインテルのXeon7500に最適化され、大規模並列なスケールアウトに対応。圧縮により大量のデータをメモリ上で保持可能で、行およびカラムストアの両方のストア方式を採用し、集計テーブルなどをあらかじめ用意することなく高速な分析処理を可能にしています。
ERPなど業務系システムからHANAへのデータ転送は、サイベースのレプリケーション技術を利用してほぼリアルタイムに行われます。これにより、既存のシステムにはレプリケーション以外の変更は不要。
さらに次期バージョンのHANA 1.5(時期未発表)では、全社のデータウェアハウスをインメモリデータベース上に載せ、情報系システム全体を統合することを想定。
そしてその次のHANA 2.0ではOLTPの機能を提供することで、ERPなど業務システムのバックエンドデータベースと分析など情報系のバックエンドデータベースを統合し、1つのインメモリデータベースで実現しようとしています。
SAPが直面する2つのチャレンジ
こうして業務系、情報系の両方ともをインメモリデータベースで統合し、高速なリアルタイム処理を実現することが同社が提唱する「リアルタイム企業」の実現につながります。すなわちそれは、これまで同社製品が他社に依存してきたバックエンドデータベースを、将来的にはSAPが提供する「HANA」にしてこそ理想的なシステムが実現できるというメッセージ。「HANA」の提供とロードマップの発表により、SAPはデータベースからアプリケーション、モバイルまで一貫して自前で提供するという自前主義に舵を切ったといえるでしょう。
SAPによるHANAのチャレンジは2つあります。1つは、インメモリ技術を用いてOLTPとOLAPを統合することが本当に可能なのかどうか、ということ。OLTPでは多くのユーザーが数レコードという小さな単位のデータの追加や更新を大量に行うのに対し、OLAPでは比較的少人数のユーザーが、幅広い範囲のデータに対して検索や分析を行うのが典型的なパターンであり、それぞれはまったく相反する性格の処理です。安価なコモディティサーバをプラットフォームにしてこの2つを実用的な性能で統合できるとすれば、それは破壊的テクノロジーに値するでしょう。
そしてもう1つは、業務システムのOLTPデータベースをSAP製に置き換えることが本当にできるかどうかという点にあります。OLAPと違い、OLTP処理は止まってはならないミッションクリティカルな処理であり、技術的に信頼性が要求されるだけでなく、サポート体制や企業からの信頼と実績が必要です。それはテクノロジーのチャレンジよりもビジネス面でのチェレンジといえます。
福田氏は「だからこそ今回のHANA1.0、次のHANA 1.5、HANA2.0で実績を積んでいく」と言います。SAPはHANAをあくまでも同社製品のデータベースエンジンとし、汎用のデータベース製品としてデータベース市場に参入するというつもりは今のところないはず。しかし、業務系のデータベース選択は採用する側の企業も保守的な判断をしがちです。ここにSAPがいかに食い込んでいくかも注目すべき点でしょう。もしかしたらここで買収したサイベースが生きてくるのかもしれません。
ちなみにHANAのテクノロジーは、同社のオープンソースデータベースであるMaxDBや、先頃買収したSybaseなどとは別のもので、同社が2005年に買収したインメモリデータベース企業の技術や社内で開発した技術を基にしているとのこと。また、将来のバージョンで予定されているOLTP機能もSybaseからの移植などではなく、独自のものになる見通しで、すでに今回のHANAにも機能としては組み込まれているとのことです。
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