SAP、新保守サービスによる実質値上げを断念。その経緯
一昨年の7月、保守サービスを手厚くする代わりに、多くの顧客に実質的な値上げとなる保守料金の体系を発表したSAP。その後、値上げに反発するユーザーグループに理解してもらうために、昨年はSAPのソフトウェアとそのサービスの価値を、顧客の経営数値の改善によって証明しようというプロジェクトにユーザーグループとともに取り組んでいました。以下はその経緯を紹介した昨年7月の記事。
しかし先週1月14日付けのプレスリリース「SAP Expands Maintenance and Support Portfolio, Offering Choice, Predictable Pricing and Best Value to All Customers Globally」によると、SAPは以前の安価な保守サービス「SAP Standard Support」を復活させることを明らかにしました。すでにいくつかのメディアで報道されています。
今後は保守サービスが「SAP Standard Support」と「SAP Enterprise Support」の2本立てとなり、SAP Enterprise Supportへの一本化による値上げは断念された模様です。
顧客やユーザーグループとの対話を反映
これに先立つ約1年前、2008年11月にSAPが公開したプレスリリース「SAP ジャパン - SAPとSUGEN(SAP USER GROUP EXECUTIVE NETWORK)、共同で、SAP社が提供する新サポートの価値の数値化を推進」では、顧客の90%が値上げに反対していることが明らかにされていました。
このプレスリリースの表題にもある、新サポート価値の数値化によって顧客の経営が改善されることを示し、なんとか値上げを受け入れてもらおうというのがSAPの狙いだったわけです。
そして数値化の結果、次のようなプレスリリースがSAPから先月、2009年12月3日に公開されました。
このプレスリリース、表題こそ「価値を確認」と、顧客の経営がSAPの新サービスで改善されたように書いてありますが、中身を読むとKPIがいくらからいくらに改善されたのか、どのようなKPIを調査したのかといった具体的な面には触れていませんでした。
そのため、調査の結果は一体どうなったんだろうと疑問に思っていたところで今回の発表が行われたわけです。プレスリリース「SAP Expands Maintenance and Support Portfolio, Offering Choice, Predictable Pricing and Best Value to All Customers Globally」では、Standard Supportの復活(リリースでは新しいサポートモデルの発表)の理由を次のように書いています。
"SAP's new support model is a direct response to the many discussions we've had with our customer and user groups," said Léo Apotheker, chief executive officer, SAP.
SAPの新しいサポートモデルは、顧客やユーザーグループとの多くのディスカッションを直接反映したものだ
多くの顧客は、値上げが回避されたことに胸をなでおろしていることでしょう。またSAPにとっても、1年以上にわたる顧客とのコミュニケーションによって新たな決断をくだした経験は重要なものになったのではないでしょうか。
ところで、SAPはERPという業務アプリケーションの企業というイメージが強いのですが、このところGoogle WaveやTwitterといった新たな分野への取り組みも非常に活発になっています(下記の記事などを参照)。次回の記事では、その1つとして同社が取り組んでいる新たな企業内コラボレーションツールを取り上げる予定です。