アジャイル開発とクラウド(SaaS)利用の位置づけ、SIerの生きる道
早口の関西弁でつっこみまくって笑いを誘い、でも最後にアジャイル開発とクラウド利用の棲み分けについて「なるほど」と思わせる素敵なライトニングトークのビデオを見つけました。
それはPublickeyでも何度か紹介している9月4日に行われたイベント「XP祭り2010」での、市谷聡啓氏によるライトニングトーク「始まらなかったAgileの話をしよう」です。
アジャイル開発、セールスナントカに敗退す
ライトニングトークのあらすじを紹介しましょう。市谷氏がある海岸沿いのSIerにいたころの話。
お客様から「特定の期間しか使わない。できるだけ早く利用したい。ただし仕様は変わる可能性がある」というシステム開発案件の依頼を受け、「これはアジャイルしかないだろう」とお客様に提案。
市谷氏はこの提案で「勝利を確信したなと」。
「ところがこいつが出てきたんですね、黒船ですわ」と思わぬ競合が出現。「具体的に言うとセールスナントカっていう会社なんですが、完全に競合になりまして」(会場笑)と、某クラウドベンダーが競合に。
「われわれの提案はUIのいい感じのシステム作りますよと。(略)ま、楽勝やなと!」(会場爆笑)
「ところが、セールスナントカは、見た目はしょぼいんですが、すでにありますよと。すでにあるってなんやねんと。明日からでも始められますよということになって、じゃあお客さんはセールスナントカを選びますよということになった」と、市谷氏側のアジャイル開発は競合に負けてしまったとのこと。
「で、何がおきたんやと?」と市谷氏は振り返って分析します。
「システムってどういのうがあるのって考えたときに、絶対動いてないといけない(ミッションクリティカル)かどうかとか、その企業の競争の源泉になっているかどうか(コアコンピタンス)という軸で考えていくと、いろんな種類があるんですな」
市谷氏は、これを大きく2つに分けます。非コアコンピタンスのためのシステムは、適切に動けばいい。安ければ安いほどいい。コアコンピタンスのためのシステムは、つねに答えを探し続けるものだろうと。
「それを提供する手段として、右側にはSaaSとかPaaSがあって、左側には内製、アジャイルというのがこれからなっていくのではないかなと思う」(市谷氏)
市谷氏はこのように、アジャイル開発とPaaS、SaaSの位置づけを示しました。
市谷氏の話には、SIerの開発案件がクラウドによって大きく変わろうとしていること、コアコンピータンスでない部分の開発案件は安価ですぐ使えるクラウドによって奪われていくのだろう、ということが表れていると思います。
もちろん、コアコンピータンスのためのシステムをアジャイル開発で行う場合のプラットフォームとしてPaaSやSaaS、IaaSなどのクラウドを使うこともあり得るので、アジャイル開発とクラウド利用が対立するわけではありません。クラウドをどう使って開発をしていくのか、SIerや開発に関わる人にとって大事な教訓が含まれているのではないでしょうか。
以下が市谷氏のライトニングトークのビデオ。4分45秒です。
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