Red Hat Summit 2010 「クラウドのロックインをオープンソースで解いていく」戦略。JBOSSはRuby、PHPもサポートへ
米Red Hatは、米ボストンで先週6月22日から開催された「Red Hat Summit 2010/JBossWorld 2010」で、パブリッククラウドからプライベートクラウドにまたがる同社のクラウド戦略を表明。
次世代のJBOSSではJavaのほかにRubyやPHPなどをサポートするというロードマップを明かし、またクラウドソリューションとしてプロバイダ向けのサポートパッケージ「Red Hat Cloud Foundations, Edition One」を発表しました。
基調講演の内容を、公開されているビデオを基に紹介しましょう。
基本的なパラダイムシフトが起きている
最初に登場したのは、Red Hat会長兼CEOのJim Whitehurst氏。
Red Hatのミッションは、よりよい技術をオープンソースのやり方で提供することにより、コミュニティ、パートナー、コントリビュータ、カスタマーなどの触媒となることだ。 みなさんはぜひこの機会に、クラウドの方向性、オープンソースの方向性など、さまざまなフィードバックをしてほしい。
さて、いまは技術にとって大きな変化が起きている。モバイル、HTML5、コラボレーション、そうした変化の中でも最大のものがクラウドだろう。ファンダメンタルなパラダイムシフトが起きている。
いま起きているのは、機能や性能の上昇とコストの下降だ。ムーアの法則は続き、ディスクの大容量化と価格低下、ファイバーケーブルの容量増大と価格低下。
この機能性能の向上と、コストの下降のあいだにビジネスのポテンシャルがある。
そして、いまもっとも素晴らしいIT体験というのは家庭で起きている。iTunes、Google、Facebook、Twitterなどがそれだ。社内で働いている従業員は、これと同じような体験を期待するはずだ。あるCIOは、自分の最大の競争相手はグーグルだという。
私の高校生の娘は学校の授業でGoogle Docsを使ってドキュメントを共有している、それも無料で。なんでEnterprise ITはこのレベルに達しないのか?
ITプロフェッショナルはこの課題を解決していない。なぜITはイノベーションを提供できなくなってしまったのだろうか?
ITはなぜイノベーションを提供できなくなったのか?
3つの理由があると考えている。
1つ目は、ソフトウェアのビジネスモデルは基本から壊れたのだ。よく知られた研究によると、MS Office 2007とOffice 2000をそれぞれ当時のマシンで動作させると、Office 2007では典型的な機能の動作速度は40%も下がっているという。
何かが失われているのだ。
利用者が望みもしない機能を追加してソフトウェアをライセンス販売する、というビジネスモデルは壊れたのだ。しかも、提供されている機能によるベンダロックインは行きすぎている。
2つ目の理由は、複雑さだ。ソフトウェアの機能増加にかかわるインテグレーションコストはあまりにも大きくなった。
そして3つ目の理由は、ITプロジェクトの失敗だ。半分以上のプロジェクトは失敗している。仕様策定、開発に十数カ月もかけて行うような大規模なプロジェクトでは、出来あがる頃に起きている要求の変化に耐えられない。
何年も掛けてバージョン1からバージョン2にするようなITプロジェクトはうまくいかないのだ。
ITは正しくない方向に向かっている。どう修正するか?
- 顧客中心のビジネスモデル
- テクノロジーの可能性を提供するようなモダンなアーキテクチャ
- イノベーションを提供する新たなよりよい方法を採用する
そしていま、誰もがクラウドに興味をもっている。クラウドはフィーチャー(機能)を買うことができ、ソフトウェアを買う必要がない。ビジネスバリューに対してコストを払うことができる。
クラウドはモダンなモジュラー構造を備えることができる。そして、テスト、プロダクションを迅速に行う手段を提供してくれるのだ。
オープンソースがベンダロックインを解いてきた
続いて、プロダクト&テクノロジー担当役員兼プレジデントのPaul Cormier氏登場。
80年代のアーキテクチャを振り返ってみれば、DEC、Sun Microsystemsなど、それぞれのベンダが独自のスタックを持っていた。ベアメタル(ハードウェア)、OS、アプリケーション。顧客に対する強いロックインが起きていた。
これに対してオープンソースは、OSのロック、ミドルウェアのロックなどを解いていき、オープンソースによるソフトウェアスタックが完成するところまできた。
そしてこんどはクラウドコンピューティングの景色を変える次期だ。
オラクルはサンを買収し、ベアメタルからミドルウェアまでを統合した完璧なプラットフォームを提供する、といっている。まるで80年代に戻ったようだ。
マイクロソフトは、Windows Azureでオンプレミスとクラウドのどちらも、すべてのレイヤを同じようにWindowsで統合しようとしている。これもまるで80年代のようだ。
VMwareとSUSE Linuxは先週提携を発表したが、SUSEは特定のハイパーバイザだけをサポートするという。これもオープンソースの私から見ればまるで80年代のやり方だ。
80年代のロックインが「バージョン1」だとしたら、これらはまるで「ロックイン 2.0」と呼べるだろう。
Red Hatは戦略的な柔軟性を提供する
これまでRed Hat Enterprise Linuxはプライベートクラウドのために最適化してきた。Red Hatの仮想化だけでなく、Hyper-V、VMwareなどのゲストOSとしてもリソース管理、セキュリティ管理、スケーラビリティなどが最適に動作するように最適化してきた。本当の選択肢を提供するためだ。
次世代のミドルウェアプロダクトでは、POJO、JEE、Spring、Ruby、Groovy、PHPなどを1つのスタックで提供する。これはアプリケーションのライフサイクルをサポートする点でとても重要なことになる。
クラウドコンピューティングとはリソースをベアメタルから、プライベートクラウドもしくはパブリッククラウドへとオフプレミスにすることだ。このときアプリケーションからみてスタックの一貫性が求められる。いま、JBOSSをこうした一貫性のある基盤にするべく作業をしているところだ。
そして「Red Hat Cloud Foundations, Edition One」のリリースを発表する。これは顧客のためにクラウドを提供するサービスプロバイダに、ツール、サービス、コンサルティング、トレーニング、リファレンスガイドなどを提供し、エンタープライズクラスのクラウド構築をしてもらうためのものだ。
顧客はプライベートクラウドでの仮想化レイヤに、KVMの代わりにVMwareやHyper-Vを選び、その上にRHELを乗せることもできるし、パブリッククラウドでAmazonクラウドを選び、OSにRHELとJBOSSを乗せることも、IBMのクラウドでRed Hat Enterprise Linuxの上にIBMのミドルウェアを乗せることもできる。顧客は選択肢を得ることができる。
プライベート、パブリッククラウドのための包括的なソリューションをRed Hatは提供する。そして戦略的な柔軟さで、ロックインをはずしていくのだ。