クラウドとアプリマーケットの組み合わせがソフトウェア市場を変えていく
アップルの「App Store」の大成功に刺激されて、多くの企業がApp Store的な「アプリケーションマーケット」の構築に取り組んでいます。App Storeが音楽の流通を大きく変えつつあるように、アプリケーションマーケットとクラウドの組み合わせは、エンタープライズ向けのソフトウェア市場まで大きく変えるかもしれません。
続々と登場するアプリケーションマーケット
ニューヨークタイムスの2月1日付けの記事「Google Planning Store for Business Apps」に、グーグルがGoogle Appsを強化するためにアプリケーションのオンラインストアを立ち上げる計画がある、と報じられています。ビジネスパートナーを巻き込んで、Google Appsをプラットフォームとするソリューションを増やすのが目的のようです。
アプリケーションのマーケットはアップルのApp Storeの大成功に刺激され、多くのベンダが取り組み始めています。アップルのiPhoneに対抗してグーグルは「Android Market」をすでに立ち上げていますし、アマゾンはKindle用のマーケット「Kindle Store」を発表しています。ノキアは「Ovi Store」を、サムスンは「Samsung Apps」を開設と、モバイルでは続々と立ち上がっています。
アプリケーションマーケットはモバイルデバイスだけにとどまりません。セールスフォース・ドットコムは以前から同社のクラウドをプラットフォームにしたアプリケーションのマーケット「AppExchange」を開設していますし、マイクロソフトはWindows Azureに対応したソリューションのマーケット「Microsoft Pinpoint」を昨年に開設。珍しいところでは、センドメールが電子メールインフラ用のアプリケーションマーケットを開設しています。
App Storeが音楽の流通に変革をもたらし、モバイル向けアプリケーション市場をも一変させたように、エンタープライズ向けのマーケットプレイスもソフトウェア市場を大きく変えていくかもしれません。そうだとすれば、App StoreにおけるiPhone/iPodに相当するのはクラウドではないでしょうか。
ボタン1つで業務アプリケーションが導入できる
いままで企業が業務アプリケーションを導入する場合には、処理内容に合った構成のサーバとストレージ、OSなどを購入し、複雑なライセンスを選択し、専門家が時間を掛けてインストールと設定をする必要がありました。大きな初期投資とともに、数週間から数カ月かかる長いプロセスを経て、ようやく稼働し始めるのが一般的です。
しかし、クラウドとそれに対応するマーケットプレイスの組み合わせはこの状況を一変させます。利用者はマーケットプレイス画面を開き、適切なアプリケーションと利用者数を選択、ボタンを押せば数十分後には業務アプリケーションがクラウドに展開されて利用を開始することができるようになるでしょう。
利用者にとって初期投資はゼロ、インストール作業も不要、利用者が増えればその分ライセンスを追加すればよく、クラウドがライセンスに応じて自動的に処理能力を拡大してくれるはずです。
こうした「ボタン1つで業務アプリケーションが使い始められる」環境は、セールスフォース・ドットコムのAppExchangeはすでにほぼ実現していますし(たしか課金機能がOEM以外はまだだったように思いますが)、マイクロソフトもグーグルも同様にすぐにクラウドで使えるアプリケーションの充実を目指してマーケットプレイスの充実を計画しているはずです。
ではアマゾンは? 実はマーケットプレイスとして見せてはいませんが、同様のアプローチを開始してるといえます。AmazonクラウドのWebページには「IBM and AWS」「Oracle and AWS「Symantec and Amazon Web Services」などさまざまなソフトウェアベンダと組んで、各ベンダのインストール済みのイメージを簡単にAmazonクラウドでボタン1つで実行できるようになっています。利用ライセンス料もAmazonクラウドの時間あたりの利用料の中に含まれるという方式をとっています。
エンタープライズ業界のアップルになれるチャンス
もしもこうしたクラウドをプラットフォームとしたマーケットが普及してくれば、エンタープライズでのソフトウェア導入プロセスというのはこれまでのやり方から大きく変わっていくことになるでしょう。
そしてクラウドのプロバイダーも、テクノロジーの提供だけでなく、(アップルがそうなったように)ソフトウェアのデリバリに関するすべてを垂直統合した総合的なプラットフォームへと進化していくことができます。
もちろん業務アプリケーションはiPhoneのアプリケーションとは違い、導入にはコンサルティングが必要ですし、カスタマイズも必要でしょう。しかしそれはマーケットプレイスの付加価値としてサービスメニューに加えればいいこと。
それよりも、グーグルやアマゾンやセールスフォース・ドットコムや、そしてマイクロソフトが、エンタープライズのアップルになれるかもしれないという、こんな魅力的なチャンスを見逃すでしょうか?
そこまでおおげさに言わなくとも、モバイルでの状況と同じように、あるクラウドにはマーケットプレイスがあり、別のクラウドにはないという状況は競合対策を考えれば長く続かないでしょう。顧客に魅力的なクラウドでなければ開発者もそのクラウドでの開発に魅力を感じません。顧客が集まる仕掛けとしてのマーケットプレイスの存在は、開発者を集める仕掛けよりもクラウドのプロバイダーにとって優先度が高くなることも十分にありえます。
iPod/iPhoneの魅力がApp Storeによって高められているのと同じように、これからクラウドベンダは自社のクラウドをより魅力的に見せるために、クラウドに対応したマーケットプレイスにも積極的に注力していく、今後そうした動きがさらに活発化していくのではないでしょうか。