仮想化は、クラウドのインフラとしては不要ではないか?

2010年7月28日

「仮想化はクラウドを実現するインフラとして必要だと考えられている。しかし、そうではない」と主張するGigaOMの記事「VMware Knows the Cloud Doesn’t Need Server Virtualization」(VMwareは知っている。クラウドに仮想化は必要ではない)が話題となっています。

VMware Knows the Cloud Doesn’t Need Server Virtualization

InfoQの記事「Does the Cloud Need Server Virtualization?」(クラウドは仮想化が必要なのか?)では、GigaOMの記事を取りあげて次のように書いています。

(ハイパーバイザ、OS、仮想マシンからさまざまなサービスまで)膨れあがったアプリケーションアーキテクチャの階層は、大きな変化へと成熟しつつある。

InfoWorldの記事「End-times for server virtualization?」(サーバ仮想化の終わり?)でも、GigaOMの記事を引き合いに出して、こう書いています。

すぐにクラウドベースのITから仮想化がなくなるかどうかは分からないが、あまりにも仮想化へ依存している状態からは、近いうちに揺り戻しがありそうだ。

GigaOMの記事はどんな内容なのでしょうか? 簡単に紹介しましょう。

仮想化は、いずれ不要になる松葉杖のようなものか?

記事では、仮想化はクラウドのアプリケーションがOSやサーバを直接参照せずに動作するようになるまでの松葉杖に過ぎない、としています。

it is only a crutch we need until cloud-based application platforms mature to the point where applications are built and deployed without any reference to current notions of servers and operating systems.

それ(仮想化)は松葉杖のようなものだ。クラウドベースのアプリケーションプラットフォームが、現在のサーバやOSといったものを参照せずに構築され運用されるまでのあいだだけ必要とされる。

つまり、クラウドがIaaSからPaaSへと進化したときには、仮想化の重要性は決定的に低下すると。

その例として、IaaSのAmazon EC2では仮想マシン単位でクラウドを利用するのに対し、PaaSであるGoogle App Engineや、Heroku(Ruby on RailsのPaaS)では利用者もアプリケーションも仮想マシンのことはまったく意識する必要がないことを挙げています。

In a few years, clouds at the application platform layer will be the new hardware. At that time, traditional operating systems and server virtual machines will become much less important to the cloud.

数年のうちに、クラウド上のアプリケーションプラットフォームレイヤが新たなハードウェアとなるだろう。そのとき、これまでのOSや仮想サーバは、クラウドでの重要なものではなくなる。

サーバ仮想化の重要性は、約3年で終わるだろうと予言。

Enterprise private clouds will need server virtualization for a while, but I expect that market to peak in three years and then begin a steady decline brought about by the commoditization of basic server virtualization we are already seeing and the shift of new development to PaaS.

エンタープライズ・プライベートクラウドはしばらくの間サーバ仮想化を必要とするだろう。しかし3年以内にマーケットはピークを迎え、いまあるような基本的なサーバ仮想化はコモディティ化して下降線をたどるようになる。そして、新たなPaaSの開発へとシフトしていくだろう。

仮想化市場のリーダーであるVMwareはこのことを知っているために、SpringSourceを中心とするPaaSへのシフトを積極的に進めているのだ、というのがこの記事の表題に込められた意味です。

コモディティ化するが、不要とはならないのではないか

PaaSでは仮想化は本当に不要になるのでしょうか? 仮想化はクラウドに2つの機能をもたらしているといえます。

1つは、主にIaaSで利用されているように、物理サーバの実体とは関係なく利用者ごとに分離された環境を提供し、課金をする機能です。IaaSでの課金単位は仮想サーバ(インスタンス)単位であり、IaaSのマルチテナントはこの機能により実現されています。

そしてもう1つは、サーバの管理を容易にする機能です。例えば、稼働中のソフトウェアを別サーバへ移動する機能によって、システムを止めることなくハードウェアの入れ替えやメンテナンスを実現したり、特定のサーバに集中した負荷を複数のサーバへ分散させたり、といったことを可能にしています。

前者のマルチテナントの機能は、PaaSになればPaaSのレイヤで実装されることになることは、Google App EngineやHeroku、それにForce.comなどのPaaSを見れば一目瞭然。ここで仮想化が実現している機能とその役割はGigaOMの記事が主張するようにはっきりと失われていくでしょう。

一方で後者の、仮想化によるインフラ管理の向上は、PaaSになっても引き続き必要とされるケースが多いのではないかと思います。大規模なデータセンター上でのクラウドの運用は、仮想化による性能のオーバーヘッドを差し引いても効率化の利点が上回るのではないでしょうか。

ただし、こうした仮想化が提供する機能は明らかにコモディティ化していくでしょう。すでにEucalyptusやOpenStackといった、仮想化をベースにしたオープンソースによるクラウド構築用のソフトウェアの提供は始まっています。

いまはこれらオープンソースの提供する機能と、VMwareなどが提供する商用ソフトウェアでは機能に大きな差がありますが、数年後には必要十分な機能がオープンソースで提供されるようになるでしょう。

そのとき、仮想化をベースにしたクラウドはたしかにコモディティ化するはずです。

つまり僕の考える結論は、数年で仮想化やそれをベースにしたクラウドはコモディティ化し、仮想化の重要性も低下する。商品としての仮想化システムの重要度は低下する可能性が高い。けれども、仮想化そのものがクラウドのインフラから不要とされる可能性は小さいのではないか、というものです。

ただし、仮想化の機能も備えた極めて小さなOSがハイパーバイザの代わりを果たす、といった可能性はあるかもしれませんね。

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