OracleがGoogleを訴えた理由、「AndroidはJavaと競合する」はどういう意味だろうか
米国で、オラクルがグーグルを著作権侵害で提訴した、というニュースが流れています。なぜオラクルはグーグルを訴えたのか、その裏にどのような思惑が隠れているのでしょうか?
その解説をPublickeyのゲストブロガーとして、ITジャーナリストの星暁雄さんに書いてもらいました。また、記事の要所には星さん自身のブログへのリンクがありますので、興味がある方は参照してみてください。
AndroidがJavaの特許と著作権を侵害している?
2010年8月12日、OracleはGoogleを訴えた(関連記事)。Oracleの主張は「AndroidがJavaプラットフォームに関する特許と著作権を侵害している」というものだ。
一方Googleは翌8月13日に「訴訟には根拠がなく、Googleとオープンソース・コミュニティへの攻撃である」との声明を一部メディアを通して発表した(関連記事)。今後両社は全面対決することになるだろう。ここで現時点での事実関係と背景を手短にまとめておきたい。
Oracleがなんらかのお金を得ることが目的か
Oracleの訴状には、同社の主張が次のように記載されている。「GoogleのAndroidはOracleのJavaと、携帯電話およびその他のモバイル・デバイス向けOSソフトウエア・プラットフォームとして競合している」。
「AndroidはJavaの競合製品だ」と言われても、ほとんどの人には「ハア?」だろう(関連記事)。あれ、AndroidってJavaじゃないんだっけ?
この主張の意味を理解するには、携帯電話や組み込み機器向けJava環境であるJava MEを思い出す必要がある。旧Sun Microsystemsが開発したJavaテクノロジは、もともと有償で他社にライセンスする形で配布されていた。そして、携帯電話の多くが搭載する「iアプリ」などJava ME(旧称J2ME)の実行環境については「端末1台いくら」という形でロイヤルティが発生している。そして、この権利はSunを買収したOracleが引き継いでいる。私たちが使っている、いわゆる「ガラケー」が1台売れるたびに、Oracleにはお金が入っているのだ。
ところが、Googleが開発したAndroidはDalvik仮想マシンと呼ぶ独自の仮想マシンを軸として、Javaのライセンスを受けることなく作られている。開発者はJavaプログラミング言語や、使い慣れたJava API群の多くを使ってAndroidアプリを開発できるのだが、仮想マシンも配布形式も別物だ。Androidには旧Sunがライセンスするコードは含まれない。つまりAndroid搭載スマートフォンがどれだけ普及しようが、Oracleには一銭もお金が入らないのだ。
以上の事情から、今回の訴訟の狙いは、Android搭載スマートフォンという急成長分野から、なんらかのお金(ロイヤルティなり、和解金なり)をOracleが得ることではないかと想像できる。
Javaのオープンソース化に向けて努力してきた元Sunのエンジニアにとって、こともあろうにソフトウエア特許に基づく訴訟がJavaをめぐって発生したことは、「痛恨」の事態だということは想像に難くない。
Android開発が中断されることはないだろう
Java言語の設計者であるJames Gosling氏は、ブログで「驚くべき事ではない。SunとGoogleに関わる知的所有権問題について質問するOracleの弁護士たちの目は鋭く光っていた」と述べている(関連記事)。Gosling氏は、SunがOracleに買収されるのと同時期に同社から離れている。氏の無念を想像すると胸が痛む。「ソフトウエア特許訴訟はSunのDNAには決して含まれないものだ」とのGosling氏の嘆きは深い。
この訴訟により、Androidの普及にストップがかかる可能性があるだろうか。声明文を見る限り、Googleは受けて立ち、Androidの開発を継続する構えだ。この訴訟によりGoogle側は無傷では済まないかもしれないが、Android開発が中断されることはないだろう。
かつてのJavaをめぐるSun対Microsoftの訴訟は、まずJavaのライセンス契約違反、次に独禁法違反が争点だった。ソフトウエア特許をめぐる裁判では決してなかった。その点を考えると、今回の訴訟に似ているのはむしろSCOのUNIX-Linux訴訟のように思われる。UNIXの知的所有権を有すると主張したSCO Groupが、「LinuxはUNIXの知的所有権を侵害している」として全Linuxユーザーからライセンス料を徴収しようとした、あの悪名高い訴訟である。この時、訴訟の標的とされたIBMは「Linuxユーザーを守る」と宣言した。Novellが訴訟に参戦したこともあって、実際にLinuxユーザーが被害を被る事態には至らなかった。ただし裁判は7年続いた。
今回の訴訟でOracleが雇った大物弁護士David Boies氏は米司法省対Microsoft裁判では司法省の代理人を務めた有名人で、皮肉なことにこのときSunは司法省側の有力な証人だった。その一方、Boies氏はUNIX訴訟ではSCO側の弁護士を務めている(関連記事)。
今回の訴訟では、オープンソース・ソフトウエアに関する知的所有権とソフトウエア特許の問題があぶりだされる可能性がある。それはIT業界の未来にも大きな影響を及ぼすことになるだろう。
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