MySQLの将来が心配なので、(たぶん)日本一のMySQLエキスパート「日本男児」に聞いてみた
オラクルは、サン・マイクロシステムズを買収後、オープンソースとして提供されていたOpenSolarisを事実上終了し、またオープンソースとしてAndroidを提供しているグーグルに対して「Javaと競合する」という理由で訴訟を起こすなど、オープンソースに対して非協力的と見える行動が続いています。
こうなると、同社が保有するオープンソースデータベースのMySQLの今後は大丈夫なのか懸念されます。すでにMySQLのコアな開発者の何人かは同社を去り、MariaDBやDrizzleといったほかのオープンソースデータベースに取り組んでもいます。今後、MySQLの開発が弱体化したり、方向転換してSolarisのようにクローズドになったりすることはないのでしょうか?
そこでMySQLのエキスパートとしてブログ「漢(オトコ)のコンピュータ道」を執筆するブロガー「@nippondanji」であり、かつ日本オラクル MySQL Global Business Unit テクニカルアナリストの肩書を持つ奥野幹也氏に聞いてみました。
奥野氏なら、MySQLの表の事情にも裏の事情にもおそらく日本一詳しいはず。このインタビューは奥野氏が勤務する日本オラクルを通してメールで行われました。
日本男児とMySQLの出会い
本題に入る前に、奥野さんはいつもブログでMySQLについて熱く語っていらっしゃるのですが、MySQLとはいつごろ、どのように出会ったのでしょう?
奥野氏 もうかなり記憶はうろ覚えですが、2003年頃だったと思います。当時はサン・マイクロシステムズで特定のお客様専属のテクニカルサポートを担当していたのですが、担当しているシステムの構成管理に苦労していました。お客様のシステム情報をExcelで管理していたのですが非常に効率が悪く、「もうやってられん!!」と思い立って管理用のアプリケーションを作ってみようと思ったのがきっかけです。
開発するのはデータベースを利用したWebアプリケーションにしようと思ったのですが、個人の思いつきには当然予算などありませんので、無料で使えてしかも軽快に動作すると評判だったMySQLを利用しました。当時の私にはデータベースやWebアプリケーションの知識はほとんどなく、独学ですべて学ぶ必要がありましたので、「MySQL徹底入門」(当時は第1版。現在は第2版が出版されています)という本を読んでMySQLを勉強しました。結局、しばらくして会社が標準の構成管理ツールを提供してくれたので、私が作成していたプロトタイプが日の目を見ることはなかったのですが、結果的にデータベースについて触れるきっかけを与えてくれたので、私にとってはまったく無駄な経験ではありませんでした。
その後、2007年にMySQL ABのサポートチームに入るための入社試験を受ける機会に恵まれました。MySQLのサポートチームでは入社前に実力を確認するため技術試験を行っており、試験の内容は実践的な内容まで踏み込んだかなりディープなもので、合格率はかなり低かったです。私の場合、当時MySQLについてはそれほど詳しくなかったのですが、元々サン・マイクロシステムズでテクニカルサポートをやっていた経験があったので、OSの知識や解析のノウハウを活かし無事合格することが出来ました。このときから、データベースのトラブルシューティングにはOSの知識が大事だなということを実感していました。
さて。MySQLの現状についてお伺いしたいと思います。MySQLの現状の開発体制はどのようになっているのですか?
奥野氏 開発チームは機能ごと、例えばレプリケーションや文字コード、Connector、GUI(MySQL Workbench)、InnoDB、MySQL Cluster、QAなどによってサブチームに分かれて、IRC(専用のサーバーが社内ネットワークに設置されています)で連携をとりあっています。開発には分散バージョン管理システムとしてBazaarが用いられ、Launchpadからリリース前の最新のソースコードをダウンロードできるようになっています。
バグ情報や開発のサブタスクであるWork Logなども公開され、とてもオープンな環境で開発が行われています。こういったオープンな文化は今後も継続して欲しいですね。
forkはライバルであり、そのためオラクルが手を抜くことはない
過去に開発者がMySQLから去るといったこともありました。MySQLはこの先、分裂したり、開発が滞ったりする心配はありませんか?
奥野氏 その心配はありません。今現在、MySQLはとても活発に開発が行われています。サン・マイクロシステムズが買収される際、MySQLが独占禁止法の対象になるのではという懸念からヨーロッパ委員会によって調査が行われたのはご存じかと思います。
そのとき、オラクル・コーポレーションはMySQLについて10の公約を発表しました。それによると、MySQLの開発やサポートに対して、サン・マイクロシステムズのときのそれよりも多くの投資を行うことになっているからです。また、今後もGPLで公開することも約束しています。
そもそも、MySQLはGPLv2で公開されているフリーソフトウェア(注)です。誰でも自由に改造(機能追加や改善)をし、頒布することが可能です。つまり、forkし放題なのです。もし本家のMySQLの開発がユーザーの期待に添えないような事態が発生した場合には、誰かがforkして改善を続けていくことでしょう。実は既にMySQLには強力なforkがいくつか存在します(諸事情により、具体的なforkにどのようなものがあるかとういことについてはここで挙げることはできません)。MySQLをベースにしたforkが登場するということは、MySQLの有用性が認められているということであり喜ぶべきことです。
一方、forkが登場する背景としては、現在のMySQLには足りないものがあったり、改善の余地があるということを示ものでもあります。完璧なソフトウェアというのはこの世に存在しませんから、改善の余地があるのは当然です。ですが、forkのほうが良いものになれば、ユーザーはそちらを選んでしまうかも知れません。そういった意味ではforkはライバルと言えるでしょう。forkにより、他に強力なライバルが存在するというプレッシャーが生じるため、オラクルに所属する本家MySQL開発チームが力を抜くことはないでしょう。
(注)フリーソフトウェアとは自由なソフトウェアという意味であり、無料のソフトウェアという意味ではありません(参考:フリーソフトウェア財団)
この先のMySQLのロードマップの予定などあれば、教えてください。
奥野氏 次の正式バージョンは5.5になります。現在、最新の開発版としてすでにMySQL 5.6がリリースされていますが、正式バージョンとしてリリースされるのはMySQL 5.5になります。スケジュールについては詳細に申し上げることはできませんが、米国で来週9月19日〜23日に開催されるOracle OpenWorld 2010において、19日にMySQL Sundayというイベントがあり、そこでMySQLの最新情報や動向などについてのアップデートがあるでしょう。
奥野さん自身もMySQLの書籍をだしたばかりですよね。せっかくなので最後にその本について紹介してください。
奥野氏 はい。「エキスパートのためのMySQL[運用+管理]トラブルシューティングガイド」という書籍を出しました。タイトルの通り、これは初心者向けの書籍ではありません。既に現場でMySQLを使い倒している人たちのために書きました。
MySQLは本当に多くに方々に利用していただいいており、重要性も日々増しています。トラブルをいかに早く収束させるか、いかに起こさないようにするかということが、ユーザーにとって重要な課題になっています。MySQLの初歩から構築までを扱った書籍は数多く存在するのですが、その後どのように安定した運用を継続していくかということについて詳しく書かれた書籍はありませんでした。
そこで、今回の書籍では「MySQLで起こるであろうトラブルといかに向き合うか」ということに重点を置いて解説しています。インストール、開発、運用において起きるトラブルや、トラブルを防ぐための措置などについてみっちりと書いています。トラブルを解決するには、どういった状況になっているのか、つまり何が正常で何が問題なのかを把握することが大事です。そのためには、「本来の動きはどうなっているのか」ということを知ることが重要で、本書ではMySQLの仕組みについてかなりページを割いて説明をしました。
本書は、高度なテクニックを追求するより実用面に重きを置いています。きっとMySQLを使っていただいているみなさんの役に立つと思います。
ありがとうございました。
本書は「運用」の、しかもトラブルシューティングに焦点を当てており、完全に独自の路線(サポートを受けているかのような実用的な内容)を採用。著者は MySQLユーザーのトラブルに日々対応している専門家ですので、その点でも万全です。
本書は、オープンソースデータベースMySQLの解説書「MySQL徹底入門」の改訂版です。最新バージョンであるMySQL 5.0および4.1を使いこなすための必要な知識を盛り込みました。最新機能である情報スキーマやビュー、ストアドプログラムなどにも言及。各種の環境へのインストールを解説し、難しいSQLの知識がなくてもWebベースで操作ができるphpMyAdminも収録。
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