MSとHPの提携は、IBM、オラクル、シスコに対抗する垂直統合になるか
ハードウェア、仮想化レイヤ、ミドルウェア、アプリケーションなどの、ITシステムの主要なレイヤをワンストップで提供する垂直統合の動きがIT業界で続いています。
米国のマイクロソフトがヒューレット・パッカードと共同で発表したプレスリリース「HPとマイクロソフトがシステム基盤からアプリケーションまで統合する新ソリューションでテクノロジ環境を簡素化」を見ると、この垂直統合の動きに両社が新たに加わったといえそうです。
この件はすでに各種メディアでも報道されています。
- MicrosoftとHP、企業向けクラウドコンピューティングで$250Mの共同プロジェクトを発表 - TechCrunch
- MicrosoftとHP、クラウドに関する2億5000万ドルの提携を発表 - ITmedia エンタープライズ
- MSとHPがクラウド・コンピューティング推進で提携、3年間で2億5000万ドル - ニュース:ITpro
垂直統合の引き金を引いたのはオラクル
垂直統合の大きな引き金を最初に引いたのはオラクルです。同社はシーベルやピープルソフトといったアプリケーションベンダを買収し、BEAシステムズを買収してミドルウェアを手にし、そして昨年サン・マイクロシステムズを買収して、ハードウェア、OS、仮想化レイヤ、ミドルウェア、アプリケーションというすべてのレイヤを1社で提供できるベンダになりました(サン・マイクロシステムの買収は完全には終わっていませんが)。
これは同社にとって、IT業界で最大の垂直統合されたベンダ、IBMに対抗するための戦略と考えられています(ただしIBMはLotusを除き、自社アプリケーションは持たない方針のようです)。
次に動いた大型ベンダはシスコでした。同社はデータセンター向けサーバの提供を開始するや、EMC、VMwareと手を組みます。3社によってネットワーク、サーバ、ストレージ、仮想化レイヤが提供され、さらにVMwareはSpringSourceを買収し、先日Zimbraの買収も発表することからも分かるように、ミドルウェアとアプリケーションレイヤへ積極的に投資しています(参考:VMwareがZimbraの買収発表。クラウドのインフラ、ミドルウェア、アプリケーションの3つを手中に)。
さらに、潜在的に垂直統合されたシステムを提供するベンダがあります。グーグルやセールスフォース・ドットコムに代表されるクラウドベンダです。クラウドベンダはサーバを売る代わりにネットワークを通じてサーバの能力を提供しています。両社の例でいえば、ミドルウェアレイヤにはGoogle AppEngineやForce.comを提供し、アプリケーションとしてGoogle AppsやSales Cloudなどを提供しています。クラウドベンダとは(すべてのクラウドベンダがそうではないにせよ)、垂直統合されたシステムの機能をサービスとして提供する潜在的な能力を持つベンダと考えることができます。
こうした垂直統合の動きがあるのは、オープンシステムによって構築されるシステムの複雑性が増したことに対して、ITをもっとシンプルにしようという動きがあるためではないかと、以前の記事「オープンシステムの幼年期の終わり」に書きました。
シスコ、EMC、VMwareの動きが与えた影響
ヒューレット・パッカードにとって、シスコもVMwareも重要なパートナーでした。しかし、シスコがサーバの提供を開始し、VMwareと組んだことは同社にとって非常に大きな影響を与えたようです。同社が昨年3COMを買収し、ネットワーク部門の強化をはかったのは、シスコがデータセンター向けのサーバを提供し、同社の競合になったからだといわれています(参考:ヒューレット・パッカードが3COM買収。これからはITサービスがプラットフォームとなる)。
そして、VMwareがそのシスコと組んだことで、HPが仮想化レイヤとして依存していたVMwareとの関係も見直しの対象となりました。シスコ、EMC、VMware連合が明らかになったときから、HPはVMwareとの関係を見直してマイクロソフトのHypver-Vに傾倒するのではないかと海外のメディアでは予想されていましたが、今回のマイクロソフトとヒューレット・パッカードの発表でそれが正式なものとして発表されたと考えられます。
ヒューレット・パッカードはまだ動くのではないか
発表によると両社は、以下の特徴を備えた新たなソリューションを共同で提供する予定になっています。
- システム基盤からアプリケーションまでを統合する次世代モデルをベースに構築
- アプリケーション展開の迅速化によるクラウドコンピューティングの推進
- 既存のシステムの複雑さを解消し、マニュアル作業を自動化することでIT全体のコスト削減
つまり、両社によって垂直統合されたパブリッククラウド、プライベートクラウドの両方を提供することを目指しているといえるでしょう。
しかしすでにマイクロソフトはWindows Azureという独自のクラウド展開を開始しています。すなわち、マイクロソフトはすでに自社で垂直統合したシステムを持っているということ。つまり今回の提携はヒューレット・パッカードにとってより重要だったと見ることができます。
もちろんヒューレット・パッカードはそのことを十分に理解しているでしょう。となれば、マイクロソフトとの今回の提携で時間稼ぎをしつつ、自社で垂直統合されたシステムを提供すべく、次の提携、あるいは新たな買収を検討している最中かもしれません。