グーグルがMapReduce特許を取得。Hadoopへの影響は?
大規模なデータを分散処理するためのフレームワークであるMapReduce。グーグルが検索エンジンの基盤技術として開発し、2004年に論文「MapReduce: Simplified Data Processing on Large Clusters」を発表したことでよく知られるようになりました。
そのグーグルがMapReduceの特許を取得したことが、ブログ「Wataru's Blog」のエントリ「 GoogleがMapReduce特許を取得。Googleは用途についてコメントせず」で伝えられています。
グーグルの特許取得は業界にどのような影響を与えるのか。このエントリを起点に、現時点での情報や報道をまとめました。
特許取得は防衛目的だとの観測
米国特許商標庁(USPTO)のWebサイトでは、該当するグーグルの特許「System and method for efficient large-scale data processing」が、2010年1月19日付けで特許番号7650331として公開されています。
これを最初に報じたのが米スラッシュドット。「USPTO Grants Google a Patent On MapReduce」(米特許商標庁がグーグルの特許を認可)というトピックを公開しました。
続いて、GigaOMが記事「Why Hadoop Users Shouldn't Fear Google's New MapReduce Patent」を公開。
この記事では、もしもグーグルがこの特許を振りかざすことになれば、MapReduceのオープンソース実装であるHadoop、それを採用しているYahoo!やディストリビューションビジネスをしているCloudera、そしてMapReduceの技術を採用しているTeraData、Aster Data Systems、Greenplumなど多くのベンダも影響を受ける可能性があるとしつつも、恐らくそういうことにはならないだろうと、次の理由を挙げて解説しています。
A big reason is that "map" and "reduce" functions have been part of parallel programming for decades, and vendors with deep pockets certainly could make arguments that Google didn't invent MapReduce at all.
大きな理由は、mapとreduceの仕組みは過去十年にわたりパラレルコンピューティングの一部だったからだ。そして、金持ちベンダたち(訳注:恐らくYahoo!やIBMなど)は、グーグルがMapReduceを発明したわけではないといった抗弁を確実に行えるだろう。
グーグルは、特許を振りかざすつもりがないとしたらなぜ特許を取得したのか。理由はグーグル自身をパテントトロール(特許紛争によって儲けようとする組織)から守るためだろうとのこと。
So why get the patent at all? Well, it certainly doesn't hurt Google to have it, and it lets the company avoid the possibility of a patent troll stealing it and taking the fight to Google.
ではなぜ特許を取得したのか? まず、取得することでグーグルが傷つくことはない。そして、特許を盗み、グーグルと紛争を起こそうというパテントトロールを未然に回避できるからだ
また、グーグルのスポークスウーマンがGigaOMに「この特許をどう使うかはコメントしません」というコメントを寄せています。
Like other responsible, innovative companies, Google files patent applications on a variety of technologies it develops. While we do not comment about the use of this or any part of our portfolio, we feel that our behavior to date has been inline with our corporate values and priorities.
Ars Technicaの1月20日付けの記事「Google's MapReduce patent: what does it mean for Hadoop?」も同様の論調です。
It's unclear what Google's patent will mean for all of these MapReduce adopters. Fortunately, Google does not have a history of aggressive patent enforcement. It's certainly possible that the company obtained the patent for "defensive" purposes.
MapReduceにとってグーグルの特許取得がどのような意味を持つかは不透明だ。しかし幸運なことに、グーグルは特許を振りかざすようなやり方はこれまでしてこなかった。防衛目的のために特許を取得してきたことは間違いない。
そして、訴訟にでもなればやはりIBMなどが抗弁するだろうとのこと。
Even if Google takes the unlikely course of action and does decide to target Hadoop users with patent litigation, the company would face significant resistance from the open source project's deep-pocketed backers--including IBM, which holds the industry's largest patent arsenal.
もしもグーグルがHadoopユーザーをターゲットにして特許侵害を訴えたとしても、オープンソースプロジェクトの背後に構えている大企業、IBMのように業界最大の特許保有者による強力な抗弁と向き合うことになるだろう。
これらの解説にもあるように、グーグルがHadoopに対して特許侵害を訴えることはなさそうです。しかし、MapReduceで用いられている仕組みは以前から分散コンピューティングの分野では一般的だったといわれているのにもかかわらず、特許として取得できてしまうことには疑問を感じざるを得ません。しかもデジタルデータが爆発的に増えていくこれからの時代、MapReduceの重要度は確実に増していく中で、その特許を取得した企業がほかの企業ではなくグーグルであったことが不幸中の幸いであればいいのですが。