「記事には書けなかったHTML5の話」を話してきました(前編)
先週の水曜日6月16日に、「HTML5-Developers-jp」コミュニティの管理人でもある白石俊平さん主催による「第7回 HTML5とか勉強会」が、目黒にあるオペラソフトウェアのオフィスで開催されました。
「HTML5とか勉強会」は定員が40人程度の勉強会として行われていて、以前から参加したかったのですがすぐに満員になってしまい参加できずにいました。それが幸運なことに白石さんから「新野さん、何か話してくれませんか?」とお呼ばれしまして、そのおかげでついに出席することができました。
その際に発表させていただいたのが表題の「記事には書けなかったHTML5の話」です。
HTML5に関する国内外の関係者へのインタビュ-、そのこぼれ話
僕は@ITに「HTML5が拓く新しいWeb」という連載を書いていまして、これまでにグーグル、モジラ、オペラ、ルナスケープ、W3C、アドビ、そしてマイクロソフトと、国内外のHTML5関係者にインタビューをしてきました。「記事には書けなかったHTML5の話」とは、そのこぼれ話をまとめたものです。
勉強会当日はUstreamでの配信などもあったのですが、(僕の希望により)録画はされていないので、記事としてここでその内容を紹介しようと思います。
勉強会の発表では自己紹介などもしたのですが、そこは省略して、グーグルにインタビューしたときのお話から。
グーグル
この連載では、普及が期待されるHTML5に対して各ベンダがどう考えているのか、どう対応していくのか、といったことをインタビューを通して伝えていくことがテーマとなっています。
というわけで、HTML5関連ベンダのインタビュー先として最初に選んだのはグーグルです。シニアプロダクトマネージャ 及川卓也氏らにお話を聞きました。記事の掲載は2009年8月。もう1年近く前になります。記事はこんな内容でした。
- この年の5月のGoogle I/OをきっかけにHTML5が大ブレイク
- グーグルは以前からGearsなどHTML5をにらんだ開発を進めていた
- Webは情報発信からアプリケーションプラットフォームへと変わる
- ネイティブアプリでできることは、すべてWebアプリケーションでできるようにするのがグーグルの考え
- そのために足りないところをどんどんと提案していく
インタビューを通して、あるいはその後で僕が感じたこと。
- グーグルのビジョンの通りにほぼHTML5は進化しており、HTML5ではリーダー的存在
- しかしオフィスに入るのにも受付でNDAの画面を確認するなど、一面で情報統制は厳しい
- すべてをHTML5で実現する、と言っていたのに、最近ではAdobe/Flashとも仲がよい。HTML5推しはあくまで同社の戦略でもあるのだという印象
- すべてをWeb化することで、同社の強みであるクラウドへつなげていくという目論見か
HTML5という標準による相互運用性や互換性は重要であるという理念的な面、その標準を推すことがビジネスとしても優位に立てるという戦略的な面、グーグルにはこの両面を感じるところがありました。
モジラ
2社目のインタビューはモジラ。モジラジャパンの代表理事瀧田佐登子氏と浅井智也氏に話をうかがいました。掲載は2009年9月。こんな内容でした。
- HTML5の基となるXForms Basic、Web Forms 2.0などの策定のころからMozillaはかかわっていた。
- 実装を重視したHTML5の仕様策定をリーダー的に進めてきた
- ブラウザこそアプリケーションプラットフォームと、5年前から言っている
- ブラウザに選択肢を提供するという重要な役割を果たしてきた。
- モバイル用のブラウザにも標準を
HTML5はもともと、W3Cの方針に反発した数人のエンジニアが個人的に集まって策定を始めたのが起源なのですが、モジラはそのときから一貫して関わってきています。それだけにHTML5へのこだわりを感じました。
インタビューしての僕の感想はこんな感じ。
- IEのオルタナティブとしてFirefoxがHTML5の実装を積極的にしてきたことの役割は非常に大きい
- HTML5実装ブラウザとしてはもっともシェアが大きいと思われる(がんばれ!)
- Prismなど、ブラウザ形式にこだわらないWebアプリ化も実は推進しているのだ
- 標準こそ重要という考え方がモジラの根本にある
- WebKitに押されてるけど、モバイル用Fennecがんばれ!
基本的にオープンソースとして戦っているモジラには、商業ベンダよりも親近感を感じるというか応援しています。もちろん記事ではそういったえこひいき的な書き方はしませんけれども:-)今回はこぼれ話なので。
オペラソフトウェア
3社目のインタビューはオペラ。テレビ会議でノルウェーのオスロにあるオペラ本社とつなぎ、CTOのホーコン・リー氏にインタビューをするという珍しい方法で行いました。掲載は2009年11月。次のような内容でした。
- オペラも当初からHTML5には深く関わっていた。W3CでHTML5のエディタをしているグーグルのIan Hickson氏は、WHATWG設立当初はオペラ社員だった。
- HTML5でいちばん重要なのはCanvasだろう。Flash/Silverlightなど独自技術はよくない
- 将来にわたってすべてのデバイスでWebが使えるように。そのためには標準が大事
- パワーが必要なアプリはネイティブで書けばいい(すべてをWebアプリでとは考えていない)
インタビューを終えた後の僕の感想。
- ホーコン・リー氏は、HTMLを発案した頃のティム・バーナーズ・リー氏の元同僚で、CSSの提唱者。いまでもCSSの重鎮だと、インタビュー後に気がついた。もっといろいろ聞けばよかった!
- HTML5だけでなくCSS3、SVGなど関連仕様についての重要性も同様に強調しており、標準全体にコミットしている感じ
- 標準化は同社の戦略というよりも、標準が重要という個人の信念が会社よりも先にあるような感じがした
- パワーが必要ならネイティブで書けばいいという割り切りは、同社ならではかも
ルナスケープ
連載当初から、グーグル、モジラ、オペラというHTML5推しの3社にインタビューすることは担当編集者と了解済みだったのですが、この3社のインタビューを終えたあと、次はどうしようかなと思っていました。
というのも、2009年末の時点でアドビもマイクロソフトもHTML5についてはまだインタビューを受けてもらえる状態ではなく、アップルは日本法人にSafariに関する窓口はないのだろうとインタビュー候補から外していたためです。
このとき編集担当から提案されたのがルナスケープ。なるほど、国内のブラウザベンダに話を聞くのも面白いと思い、インタビューさせていただきました。代表取締役兼CEO 近藤秀和氏らにお話を聞きました。掲載は2010年2月。こんな内容でした。
- LunascapeはTrident、Gecko、WebKitのトリプルエンジン対応
- オープンソースのレンダリングエンジンに、これだけコミットして(バグなどがあれば)報告できるWebブラウザベンダは国内ではほかにないだろう
- HTML5については「いまできることを仕様にしましょう」という印象
ルナスケープ以前にインタビューした3社はどれもHTML5に対して前のめりのベンダだっため、HTML5に対して熱いものをインタビューから受け取ってきたのですが、ルナスケープは「いまできることを仕様にしましょう、というのがHTML5だろう」的な発言で、そのクールな見方がこれまでのインタビューと対照的だったのが印象に残っています。
個人的には僕も、これくらいHTML5についてはクールにみるくらいでちょうどいいのかも、と思うようになっています。
長くなりそうなので、後編に続きます。後編ではアドビ、マイクロソフト、W3Cへのインタビューのこぼれ話。そして連載を通じて考えた「なぜHTML5は重要か?」その理由について紹介します。