オレサマHTML5はごめんだ
デベロッパーのあいだでHTML5の重要性が高まってくるにつれ、各ブラウザベンダは自社のブラウザがHTML5にいかに対応しているか、あるいは今後すばらしい実装計画があるか、といったことをアピールし始めました。
Webの新しい標準となることが決定的とされているHTML5に、多くのベンダが注目し、競うように実装を進めていることは歓迎すべきことです。これからのWebが1つの標準に基づいた高い互換性と、競争によってより品質の高いソフトウェアの提供が行われると期待できます。
しかしその一方で、行きすぎた競争による残念なことも起きています。
わざと誤解を与えようとするアップル
アドビのFlashはクローズで、HTML5はオープンだ、と言ったスティーブ・ジョブズ氏率いるアップルが「HTML5 Showcase」と銘打ったWebサイトのデモンストレーションコーナーを開設。しかし、「HTML5 and web standards.」と大きな文字で書かれたこのページに用意されたデモンストレーションは、Safari以外のブラウザでのアクセスをブロックし、Safariをダウンロードして利用するように促されます。
そして実はよく見ると、このページには次のように書いてあります。「But soon other modern browsers will take advantage of these same web standards」(まもなく、ほかのモダンブラウザーも同様の優れたWeb標準機能を備えるようになるでしょう)。
現実にはSafariだけがHTML5の実装で先行しているわけではありません。ChromeやFirefoxやOperaはSafariと同等かそれ以上のHTML5実装を実現しています(見方にもよりますが)。アップルはまるで、HTML5標準に対応しているのはいまのところSafariだけ、という誤解を与えたがっているようです。
テスト結果にクレームが寄せられたマイクロソフト
マイクロソフトは、Internet Explorer 9 Platform Previewのページに独自の互換性テストの結果を「IE Test Center」というページで掲載していました。6月16日現在、そのページは削除されてしまったようですが、現在も「Internet Explorer 9: Testing Center」のページで結果を見ることができます。
そのテスト結果では、IE9だけがHTML5の互換性テスト、SVG 1.1の互換性テスト、CSS3のいくつかのテストなどに高得点を得て、一方でFirefox 3.6やOpera 10、Chrome 4やSafari 4といったほかのブラウザは合格率が40%や70%などいずれも低い結果を示すというもの。
削除前のテスト結果がこの結果について、ほかのブラウザベンダーからクレームが付いていると、InfoQの記事「MicrosoftのHTML5準拠テストの結果にGoogle、Mozilla、Operaが異議を表明[追記あり]」に掲載されています。
まるでIE9だけが最新のWeb標準に適合していることを伝えるようなテスト結果について、当然のごとくMozillaやOperaなどほかのブラウザベンダからは、仕様の一部分だけの偏ったテスト内容であり、しかもテスト内容も適正ではない、といった異議が表明されたと伝えられています。
(追記6/16:当初、「Internet Explorer Testing Center」はリンク切れと書いていましたが、実際には削除されていませんでした。すいませんでした。見出しを変更し、本文を一部修正しました)。
相互運用性に標準の価値がある
各ブラウザベンダがHTML5の実装に熱心になることは歓迎すべきことですが、オレサマのブラウザだけが最新のHTML5に対応している、といった誤解を招くようなメッセージはごめんです。相互運用性や互換性にこそ標準の価値があることを理解していないのではないでしょうか。
もちろん、ブラウザ間の実装には差異があり、あるブラウザでは実装されていても別のブラウザでは実装されていない、特定のブラウザだけしか実行できない機能が存在することはあり得ます。
しかしその場合にも対応ブラウザ以外をブロックするのではなく、必要に応じてフォールバックを活用したり代替手段を用意するといった、よりよいユーザー経験を実現するというプログレッシブエンハンスメントという考え方が主流になりつつあります。特定のブラウザだけに対応し、ほかはブロックする、という方法は未熟な技術の使い手といわれても仕方がありません。
利用者が標準になにを求めているのかを理解し、HTML5実装のフェアな競争と正確で分かりやすいメッセージの発信を、各ベンダに期待します。
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ブラウザ競争をするなら、こんな風にしてほしいものです。