Flashは生き残れるか?
Flashは生き残れるのか? 元マイクロソフトのエヴァンジェリストであり米国の著名なブロガーであるRobert Scoble氏は、数年前には非常に多かったInternet Explorer専用のWebサイトが、Firefoxの登場によってWeb標準へと置き換えられていったことなどを例に挙げ、Flashの行く末を不安視しています。
また、iPhoneと同様にiPadでもFlashをサポートしなかったアップル。その理由としてスティーブ・ジョブズ氏が「アップルがFlashをサポートしないのはFlashがあまりにもバギーだからだ。マックのクラッシュはほとんどの場合Flashのせいだ」と言い切ったことが複数のメディアで伝えられています。
両者の意見を追ってみましょう。
FlashはWeb標準に置き換えられるのか
Scoble氏は自身のブログ「Scobleizer」の1月30日付けのエントリ「Can Flash be saved?」で、Firefoxが登場した当時はInternet Explorerに特化して作られたWebサイトばかりだったため、Firefoxは失敗するだろうと誰もが予想したことを振り返っています。しかしその予想は間違っており、Firefoxの登場によってWeb標準が重要になったことに注目しています。
What happened? Firefox FORCED developers to get on board with the standards-based web.
(数年後)何が起きたか? Firefoxは開発者たちに、Web標準に対応することを強いるようになったのだ。
これと同じことがFlashにも起きるだろう、つまり、FlashはWeb標準によって置き換えられるだろうと。
The same thing is happening now, based on my talks with developers: they are not including Flash in their future web plans any longer.
同じことがいま起きている。開発者たちと会話をしていると、彼らが考えるWebの将来に、Flashは含まれていないのだ。
Scoble氏はこう書いたうえで、しかし「Flashが不要だとは思わない。グーグルならFlashを救える」と書いています。その理由はモバイルアプリケーション。つまりAndroidでのFlashサポートはFlashを救う一助になるだろうという見立てです。
After playing a bunch of great games on the iPhone, I don't agree with the claims that Flash is needed anymore.
iPhoneの優れたゲームをいくつもプレイしたあとでは、「Flashは不要だ」という主張に私は同意できかねる。
(追記2/1:上記の訳を誤解していたので、上記に関連するくだりを本文から削除させていただきます。すいません)
Scoble氏は翌日のエントリ「Google +will+ save Flash, a developer who uses it says」では、Flashのモバイル対応の話題と、アドビシステムズがFlashをモバイルを含むあらゆるデバイスへ対応させるというOpen Screen Projectプロジェクト、およびOpen Screen Projectをグーグルのエリック・シュミットCEOが支持しているとった開発者の言い分にも触れています。
ジョブズ氏はHTML5を支持か
しかしそのモバイルデバイスで大きなシェアと影響力を持つアップルは、Flashに明確に背を向けています。1月30日付けのWiredの記事「Google's 'Don't Be Evil' Mantra is 'Bullshit,' Adobe Is Lazy: Apple's Steve Jobs (Update 2)」で、スティーブ・ジョブズ氏は次のように語ったと伝えられています。
Apple does not support Flash because it is so buggy, he says. Whenever a Mac crashes more often than not it's because of Flash.
アップルがFlashをサポートしないのはFlashがあまりにもバギーだからだ。マックのクラッシュはほとんどの場合Flashのせいだ
そしてこの発言はこう続きます。
No one will be using Flash, he says. The world is moving to HTML5.
Flashなど誰も
使ってない使わなくなるだろう。世の中はHTML5へ向かっているのだ。
ジョブズ氏はどうやらHTML5を支持しているようです。
HTML5が普及してもアドビのビジネスモデルは維持できる
Scoble氏が書いたように、モバイルデバイスではFlashは引き続き重要な技術であって、Androidが普及するとすればFlashはそのアプリケーションプラットフォームとして生き続けられるか、あるいはジョブズ氏が考えiPhoneやiPadがそうしているように、HTML5の進化こそ重要でありFlashはシステムを不安定にする余計なものとして切り捨てられるのか。
さらにWindows MobileではマイクロソフトがSilverlightを移植してきますから、Flashの行く末はモバイルデバイスの動向が握っているといえそうです。
Publickeyでは以前からHTML5の登場でFlashがどうなるのかについて記事で追ってきました。
そしてFlashという単体のプラグインではなく、Flashの機能を取り込んだAIRのようなアプリケーションプラットフォームが、これからの競争のポイントだと指摘。その中で特にモバイルプラットフォームは大事な分野だと予想しています。
やはりモバイルデバイスのアプリケーションプラットフォームの動向が1つのカギではないかという点で、Scoble氏やジョブズ氏の発言はそれを補強する材料となりそうです。
さて、当のアドビはHTML5についてどう発言しているのでしょうか? ASCII.jpの昨年9月の記事「HTML5はFlashの脅威か?エバンジェリストに聞いた」で、同社のエバンジェリスト エンリケ・デュボス氏は「HTML5の完成には、あと10年はかかるでしょう。」と答えています。
HTML5の基本的な考え方は「Webの進化を加速していく」ということですから、アドビはHTML5をサポートしていますし、W3Cのワーキンググループ(WG)に参加しています。
(略)
HTML5の完成には、あと10年はかかるでしょう。アドビはHTML5のWGのメンバーとして必要な作業をしていきますが、一方ではFlashプラットフォームのイノベーションを続けていきます。
HTML5をサポートしているという発言もあり(「完成に10年かかる」という言い方には多少の悪意を感じますが)、対立しているつもりはなさそうです。というのも、Flashプレイヤーは無料で配布しているものであり、アドビの主な収益の源泉は開発ツールからです。
たとえWeb標準としてHTML5がFlashを置き換えてアプリケーションプラットフォームとなったとしても、HTMLのオーサリングツールであるDreamweaverが彼らのラインナップにあるように、標準をサポートする開発ツールを出すことによってアドビのビジネスモデルを維持することはできます(もちろんFlash/AIRというアドビ自身の技術がデファクトになることこそアドビにとって最も望ましいストーリーではありますが)。
その点で、HTML5の進化やiPhone/iPadがFlashをサポートしないことはアドビにとって残念なことではあっても真の脅威ではないはずです。真の脅威はHTML5ではなく、マイクロソフト独自の技術であるSilverlightといえるでしょう。