電子書籍フォーマット「EPUB」で縦書きとルビのサポート、来年5月には仕様完成の見通し

2010年9月28日

XHTMLやCSSといった国際標準をベースとし、グーグルのGoogle BooksやアップルのiPadなどが電子書籍のフォーマットとして採用したことで急速に注目度が高まっている「EPUB」。

EPUBはこれまで、縦書きやルビといった日本語で電子書籍を作るには機能が不足しているとされてきましたが、EPUBの国際化を進めるサブグループ「Enhanced Global Language Support」(EGLS)がこうした機能不足を解消すべく作業を進めており、来年5月には縦書きやルビを含む仕様策定が完了する見通しであることが分かりました。

2011年5月には最終仕様

EGLSは、現在策定が進んでいるEPUBの次期バージョンであるEPUB3の、グローバル対応のためのサブグループで、村田真氏をコーディネータとして、日本、台湾、韓国、アメリカなどからメンバーが集まっています。

村田氏は9月26日のツイートで、EPUBの日本語対応を大車輪で進めていると書いています。

EPUB日本語対応を今年中になんとかすべく、いま大車輪で活動している。当然、縦書きとルビが大事になる。 縦書きは、CSS WGとEGLSとでやればだいたい済む。しかし、実はルビはもっと大変だ。 #epub_eglsless than a minute ago via TweetDeck

EGLSが作業中の仕様は縦書きやルビのほかにもいくつかあります。リクワイヤメントは「EGLS_requirement_list」として公開されています。主な項目をあげましょう。

  • Page Progression Direction(ページの進行方向)
  • Vertical Writing(縦書き)
  • Mixed Text(縦書き横書きの混在)
  • Line Breaking Rules(禁則ルール)
  • Ruby and Emphasis Dots(ルビと強調の傍点)
  • Characters or Glyphs(外字など)

そしてEGLSのタイムラインも公開されており、今後次のようなスケジュールが予定されています。

October 18-20: San Francisco F2F
October 20: Subgroup implementation proposals for first draft: finalization
October 29: First Working Draft
November 30: Second Working Draft
December 23: Public Draft
January 28, 2011: Draft standard for trial use
May 15, 2011: final specification

これによると、2011年5月15日には最終仕様が完成するとのこと。村田氏に見通しを直接尋ねたところ「Vertical writingとrubyは、これからよほどのことがない限りEPUB 3.0で対応します」と、進捗に自信を見せていました。

EGLSの縦書き仕様がCSS3にも

村田氏のブログには9月26日付けで「IDPF EPUB WGの日本語対応状況」がポストされており、現在の進捗についての詳しい状況が語られています。

縦書きについては、精鋭数人に任せている。もう、これ以上はないというぐらいのベストメンバーが、ものすごい勢いで作業している。仕様と実装が並行して進んでいる。来週ぐらいには、CSSから改定working draftが出てくるはずだ。

これは現在、W3CのCSSワーキンググループからElika J. Etemad氏が来日しており、レイアウトやスタイルに関するエキスパート(グルーソフトの石井氏、アンテナハウスの村上氏らと思われます)と作業をしていることを指しているのでしょう。W3CのCSSワーキンググループはEGLSの成果をCSS3仕様に組み入れるとしており、CSS3仕様にも縦書きなどが実装されると期待できます。

一方でルビについてはさまざまな仕様や国ごとの要求の違いに頭を悩ませているようです。

いま、頭を悩ませているのがルビ。HTML WG, CSS WG, I18N WG, JLTFが関係するだけでも大変。HTML5ルビとXHTMLルビもある。中国本土のルビもある(行分割可能な場合と不可能な場合がある)し、台湾の注印符号もある。読み上げも考慮しないといけない。しかし、必ずなんとかするつもりだ。

グローバル標準への日本語対応にもっと支援を!

EPUBというグローバルな電子書籍フォーマットの大本命を日本語対応にするという重要なミッションを村田氏をはじめEGLSは担っているのですが、それにしては支援が少ない点は非常に気になります。村田氏は8月に札幌で行われたEGLSの国際会議のあとで次のようにつぶやいています。

資料 http://bit.ly/bIlf0X にある通り、JEPAとマイクロソフト以外は札幌会議の費用を負担していない。いろんな企業・団体にお願いしたが、支援していただけなかったというのが実情である。ボランティアが燃え尽きて手を引いてしまえばそれで終り。 #epub_eglsless than a minute ago via TweetDeck

JEPAとは日本電子出版協会(Japan Electronic Publishing Association)のことで、電子出版市場の立ち上げと発展を目的とした団体。マイクロソフト、アンテナハウス、イーストなどのソフトウェア会社、岩波書店、朝日新聞社、旺文社、小学館、技術評論社、翔泳社、インプレスホールディングスなどの出版社、パピレス、富士山マガジンサービスなどさまざまな会社が所属しています。

グローバル標準を日本語対応するという重大なミッションを持った日本での国際会議に対して、費用負担がJEPAと外資系企業であるマイクロソフトだけというのは、国内で電子書籍の話題とビジネスが盛り上ろうとしている中で非常に寂しい気がします。

また、政府は日本の「文字文化の独自性、固有性を発揮できるフォーマット」としてシャープの「XMDF」とボイジャーの「ドットブック」を基にした中間フォーマットを国際標準規格にすべく推進すると決定しているので、EPUBの日本語対応への支援は考えていないのでしょう(参考:電子書籍の政府での議論が心配だ)。

この状況は変えるべきではないでしょうか。

EPUBの日本語対応は、グローバルな標準とそれを用いたグローバルな市場に日本語のコンテンツが参入できるかどうかを決定するとても重要な作業であるはずです。

世界中の人が、日本独自のビューワを使わなくとも標準的なツールでそのまま日本語のコンテンツを見てもらえる。そして日本語のコンテンツは、グローバル標準に基づいて世界中の企業が競って開発した素晴らしいデバイスやビューワでそのまま表示できる。EPUBが日本語対応することは、こうしたことを実現するもっとも現実的な方法であることは多くの人が認めるはずです。

そのためにEPUBの日本語対応や国際化について多くの人に関心を持ってもらい、また政府や企業が必要な支援を行うことで、これが十分に進捗するように呼びかけたいと思います。

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