EMCはなぜアイシロンを買収したのか?
ストレージベンダ最大手のEMCが、NASストレージベンダのアイシロンシステムズを買収すると、11月15日(米国時間)に正式に発表されました。デルが3PARを買収したときにヒューレット・パッカードが待ったをかけ、最終的にさらっていってしまったことが今年の8月に起こりましたが、今回はそのような波乱もなく、買収は速やかに行われました。
今年後半は3PARの買収、アイシロンの買収と、ストレージ業界での大きな買収が2件も起こりました。それ以外にも、IBMが8月にデータ圧縮技術のStoreWizeを買収、デルも7月にデータ圧縮のOcarina Networksを買収するなど、ストレージ業界では買収が相次いでいます。
なぜ、ストレージベンダ最大手のEMCはアイシロンを買収する必要があったのでしょうか? いまストレージ業界には何が起きているのでしょうか? いくつかの分析をまとめてみました。
EMCの理由は「Big Data」への対応
まずはEMC自身が発表したプレスリリースから、なぜアイシロンを買収したのか、その理由を見てみましょう。
Isilon is known as the leader and momentum player in the fast-growing “Scale-out NAS” segment, which IDC projects will grow on average approximately 36% annually reaching an estimated $6 billion dollars in 2014(1). Together, EMC’s Atmos and Isilon’s solutions will offer customers a highly scalable, low-cost storage infrastructure for managing “Big Data.”
アイシロンは急成長している「スケールアウトNAS」分野でのリーダーであると見なされており、この分野は調査会社のIDCによると毎年約36%成長が見込まれ、2014年には60億ドル(約4800億円)市場になるとされている。
EMCのAtmosとアイシロンのソリューションの組み合わせは、顧客に「Big Data」の管理のためのスケーラブルで低価格なストレージインフラを提供する。
キーワードとして「Big Data」が出てきます。大規模なデータを意味する「Big Data」と、スケールアウトNASの分野が急成長していることが買収の背景にあるとしています。
EMCのGlobal Marketing CTOであるChuck Hollis氏は、自身のブログにポストしたエントリ「EMC To Acquire Isilon」で、もっと率直にこの背景を語っています。それは、EMCはこのBig Dataの分野ではうまくいっておらず、一方でこの分野はアイシロンが唯一の存在だったと。
Over the years, Isilon has done an excellent job by focusing on a specific set of "big data" use cases that other vendors haven't been able to do well: petabyte-class file systems with enormous sequential performance, and exceptionally attractive capex/opex numbers.
過去何年も、アイシロンは特定の「ビッグデータ」の利用にフォーカスすることですばらしい仕事をしてきた。他社はそれに太刀打ちできなかった。ペタバイトクラスのファイルシステム、シーケンシャルアクセス性能、そして初期費用や運用費用の面で。
For these specific use cases, we quickly learned that EMC couldn't compete well as we would have liked in these focused situations. Neither could NetApp, HP, or anyone else for that matter.
こうした場面では、EMCは競争力がないことがすぐに判明した。NetAppもHPも、ほかの企業もだ。
In this category, there was Isilon -- and then everyone else.
この分野ではアイシロンだけが突出していた。ほかに誰もいなかった。
EMCはスケールアウト分野が弱かった
Computerworld.jpの記事、「EMC、NASベンダーのアイシロンを22億5,000万ドルで買収へ」でも米国Forrester Researchのアナリスト、アンドルー・ライクマン(Andrew Reichman)氏がEMCにはスケールアウト分野が弱かったと指摘しています。
「EMCのNAS製品は、NetAppの製品に十分に対抗できておらず、スケールアウトの選択肢がない。Isilonは、米国 BlueArc、米国DataDirect Networksといった企業と競合しており、これらの企業も買収のターゲットになる可能性がある」(ライクマン氏)
ストレージについていつも深い洞察を書いているNetwork Computingの記事「EMC, Isilon And The Rise Of NAS」では、アイシロンをはじめストレージベンダの最近の買収について、仮想マシンの管理に関連して次のように書いています。
a big driver of these acquisitions is the use of IP storage protocols, especially NFS, for VMware hosting. NetApp has succeeded in getting the message across that it's easier to manage one large NFS file system with 100 VMDK files in it than 20 LUNs with 5 VMs each.
これらの買収の大きな要因は、VMwareのホスティングにおいてIPストレージプロトコルの利用、とりわけNFSだ。NetAppは100のVMDKをおさめた1つの大きなNFSファイルの方が、5仮想マシンごとの20論理ユニットよりも管理が容易だというメッセージの発信に成功している。
こちらは仮想の管理を理由としてあげています。
まとめてみましょう。ここであげたすべての理由に共通していたのは、EMCはスケールアウトNAS分野が弱く、それを埋めるためにアイシロンを買収したということ。そしてスケールアウトNASの分野は急成長しています。
急成長の理由として「Big Data」や仮想化があり、それらに対して低価格で運用管理も容易なIPプロトコルによるNFS(やCIFS)のストレージが存在感を増している。EMCがアイシロンを買収した背景には、こうした理由があるといえそうです。
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