コーポレートコンピューティングの終焉、エンタープライズ2.0の夜明け
「The End of Corporate Computing」(コーポレートコンピューティングの終焉)は、Nicholas Carr(ニコラス・カー)氏が2005年にMIT Sloan Management Review誌に書いた記事で、5年前にいまのクラウドコンピューティングの盛り上がりを見抜いていました。
その後、カー氏は書籍「クラウド化する世界」(原題:Big Switch)を2008年に出版し、発電機から発電所へという時代の変化になぞらえて現在のクラウドコンピューティングの流れを説明したことでよく知られています。
「The End of Corporate Computing」がオンラインで公開
なぜいまごろ2005年のカー氏の記事を持ち出したのかといえば、カー氏が自身のブログ「Rough Type」で、この「The End of Corporate Computing」がMIT Sloanのサイトで公開され、誰でも読めるようになったと紹介していたためです。そしてカー氏自身が2005年のこの記事を、ユーティリティコンピューティングを予測し、書籍「Big Switch」の考えの基盤となった記事だと書いています。
公開された「The End of Corporate Computing」から、2番目のパラグラフを引用してみましょう。
Almost exactly a century later, history is repeating itself. The most important commercial development of the last 50 years -- information technology -- is undergoing a similar transformation.
約半世紀の後、歴史は繰り返そうとしています。過去50年でもっとも重要な開発であるインフォメーションテクノロジーが似たような変化を迎えているのです。
It, too, is beginning an inexorable shift from being an asset that companies own in the form of computers, software and myriad related components to being a service that they purchase from utility providers.
企業が所有するコンピュータ、ソフトウェアや数々のコンポーネントという形態の資産から、ユーティリティプロバイダから購入するサービスへ、という変化の始まりです。
まったく、いまのクラウドコンピューティングの議論そのもので、これを2005年の時点で明確に書いていたというのは見事というほかありません。
ちなみに、カー氏を一躍有名にした論文「IT Doesn't Matter」は、Harvard Business Reviewのサイトでさわりの部分だけを読むことができます。全文を読むには有料の登録が必要です。
Enterprise 2.0の夜明け
さて、MIT Sloanでは2006年に書かれたAndrew P. McAfee氏の「Enterprise 2.0: The Dawn of Emergent Collaboration」(Enterprise 2.0:新しいコラボレーションの夜明け)も読むことができるようになっています。
これは、当時流行していたWeb 2.0のテクノロジーを企業内にも取り入れた「Enterprise 2.0」というコンセプトを打ち出した最初の記事だといわれています。
いまではブログ、SNS、Wiki、Twitterなどのソーシャルアプリケーションを企業内のコミュニケーションや情報共有のために利用することは当たり前になっていますが、当時そうしたコンシューマ向けでオープンなWebアプリケーションを企業内で利用することは斬新なアイデアでした。
この記事は次のような書き出しになっています。
Do we finally have the right technologies for knowledge work? Wikis, blogs, group-messaging software and the like can make a corporate intranet into a constantly changing structure built by distributed, autonomous peers -- a collaborative platform that reflects the way work really gets done.
私たちはナレッジワークのための適切なテクノロジーをついに手に入れたのでしょうか? Wiki、ブログ、グループメッセージングソフトウェアなどは、企業内のイントラネットを、分散し自律した個々によって構築された、つねに変化する構造へと変えていくことができます。それは、本当にものごとを達成するための方法を反映したコラボレイティブなプラットフォームなのです。
さよならエンタープライズ。膝から崩れ落ちる衝撃
海外の硬い記事ばかりでは堅苦しいので日本の記事も紹介しましょう。「The End of Corporate Computing」が書かれた3年後の2008年には、日本における「The End of Corporate Computing」とでもいうべき中田敦記者による記事「さよならエンタープライズ」がITproの記事として公開されました。
この記事では、もはやイノベーションの多くが企業向けではなくコンシューマ向けの市場で起きていることをはっきりと指摘した記事でした。それを「ITコンシューマライゼーション」という言葉にして、中田記者は次のようにクラウドコンピューティングの勃興へとつなげています。
ITコンシューマライゼーションは今後,企業にとってより重要になる。これまではITコンシューマライゼーションといっても,「社内でAjaxアプリケーションを使う」とか「社員にiPhoneを配る」といった,枝葉末節のことしかできなかった。しかし近い将来,企業ITインフラ全てをITコンシューマライゼーションでカバーできるようになる。それが「クラウド・コンピューティング」である。
ちなみに、中田敦記者を一躍有名にした記事「Jobs氏の講演終了とともに膝から崩れ落ちる」も、もちろんいまでもITproで読むことができます。当時、ITproのライバルである@ITの発行人だった僕は、このタイトルの面白さに衝撃を受けたことをよく覚えています。