マイクロソフトのクラウド戦略はオンプレミス=Windows Serverとの互換性
マイクロソフトがロサンゼルスで先週行ったイベント「PDC09」。ここで、明らかになった同社のクラウド戦略をひとことで表すならば、「クラウドとオンプレミスの互換性」となるでしょう。
オペレーティングシステム以外をほとんど共通化
基調講演で公開されたこの図が、同社のこの戦略をもっともよく示しています。
いちばん下のレイヤ、オンプレミスでもクラウドでも、両方を同時に管理できるシステムマネジメントとして、Microsoft System Centerが新しく登場します。
そしてその上のレイヤ、オペレーティングシステムとして、オンプレミスではWindows Server、クラウドではWindows Azure。
データベースとしてはSQL ServerとSQL Azure。その上のレイヤにはAppFabric、そして.NET、Visual Studioとなっています。
つまりこれは、Visual Studioでアプリケーションを開発すれば、それをオンプレミスのWindows Serverでも、クラウドのWindows Azureでもどちらでも実行できることを目指す、ということです。
そしてそれを実現するために、Windows ServerとWindows Azureからなるオペレーティングシステム以外のレイヤをほとんど共通化したことが、以下の図でもよく分かると思います。
昨年のPDCでWindows Azureが発表されたときには、データベースはキーバリュー型データストアになっており、SQL Serverとの互換性はあまり望めませんでした。しかし、今年の3月にはSQL Server互換のデータベースにするとの大きな方針の変更がありました。
恐らくこの時点で、オンプレミスとクラウドとの互換性を実現するという戦略が形作られていたのでしょう。
開発者をクラウドへ導くのがマイクロソフトにとって重要
マイクロソフトのクラウド戦略がオンプレミスとの互換性を重視したものになったことは、マイクロソフトにとっては当然のことと考えられます。それは2つの理由からです。
1つはデベロッパー対策です。
マイクロソフトのエンタープライズビジネスにとって最大の資産はWindowsに対応した業務アプリケーションやシステムを構築してくれるデベロッパーです。彼らがいるからこそWindowsが企業の中で使われるのですから。だからスティーブ・バルマー氏はステージから「デベロッパー! デベロッパー! デベロッパー!」といつも叫ぶのです。
Visual Studioを使い、.NET Frameworkの上でアプリケーションを開発してくれている多くのデベロッパー。彼らをそのままWindows Azureデベロッパーにすることで、Windows Azure上のアプリケーションを数多く取りそろえ、それによって多くの顧客をWindows Azureに引きつける。これがマイクロソフトが考えているシナリオのはずです。
そのためには、Windows ServerとWindows Azureの開発環境をできるだけ共通化し、速やかにデベロッパーがWindows Azureへと移行できる環境を実現することが必要だったのだといえます。
もう1つは、ゆるやかな移行戦略です。
グーグルやアマゾン、そしてセールスフォース・ドットコムなどのクラウド市場のライバルはクラウドしか提供していません。顧客が新システムを構築しようと考えているとき、「オンプレミスか? さもなくばクラウドか?」と二者択一を迫るしかありません。そしてクラウドを選ばなかった場合、その顧客とはさよならです。
一方でマイクロソフトはWindows ServerとWindows Azureの両方を提供し、しかも両者の高い互換性を実現しようとしています。すると顧客には「最初はオンプレミスにしておいても、あとから必要なときにクラウドに移行できます」と言うことができ、将来クラウドを検討している顧客を自然に取り込めるのです。
デベロッパーとOSという同社が持つ2つの大きな強みを活かすためにも、マイクロソフトがWindows AzureとWindows Serverの互換性を高めるという戦略は必然だったように思えます。
ただし互換性の重視によって、例えばSQL Azureには最大10GBという制限がついたように、クラウドの利点、特にスケーラビリティを最大限に引き出すことの優先度が相対的に低下するでしょう(あるいは開発者によるセルフサービスになるでしょう)。マイクロソフトの新戦略には、業務アプリケーションならそれでも構わない、という同社の割り切った側面も同時に見えてきます。