Webブラウザの進化は、FlashとSilverlightを飲み込んでいく
マイクロソフトは3月18日、Silverlight 3のβ版を公開しました。Silverlight 3では、H.264形式の動画に対応したり、デスクトップアプリケーション的な動作、オフラインの対応などの機能追加が行われたとのこと。
それにしても、なぜいまさらマイクロソフトがSilverlightのような、Webブラウザ向けのマルチメディアプラグインを開発し、強化する必要があるのでしょう? Webブラウザの進化の方向を考えると、Silverlightも、その競合とされるFlashも、徐々にそのプラグインとしての重要性は薄れていくはずなのに。
そもそもWebブラウザは、ハイパーリンクによってつながったスタティックな文書(Webページ)を閲覧するためのアプリケーションでした。そして、アニメーション、音声、動画といったマルチメディア処理や、ユーザーのマウスやキーボードにリアルタイムに反応するインタラクティブな処理を実現するにはFlashのようなプラグインが不可欠でした。
ご存じのように、アドビシステムズのFlashは、マルチメディアとインタラクティブな機能を実現するプラグインとして事実上の標準です。
しかしこの状況は変わろうとしています。
3月18日にグーグルは、JavaScriptのアプリケーションを紹介するサイト「Chrome Experiments」を公開しました。アニメーションを描画したり、テトリスのようなゲームがあったりと、JavaScriptでここまでできるのか! というアプリケーションが体験できますので、ぜひ試してみてください(参考「全部見て5つだけ選びました! グーグルが公開した「Chrome Experiments」のみどころ」)。
このChrome Experimentsを見ても明らかですが、Webブラウザはもはやスタティックな文書の閲覧ツールではなくて、ダイナミックなアプリケーションのプラットフォームに向かって進化中です。グーグルはGoogle ChromeとGearsとGMailやGoogle Docs&Spreadsheetsなどで積極的にその進化を推し進めようと取り組んでいますし、モジラはFirefoxやPrismで、W3CはHTML 5で取り組んでいます。それ以外にも多くの組織や個人がWebブラウザの進化を推し進めています。
例えば、Firefoxの次のバージョンでは、ネイティブに動画と音声の再生が可能になります。HTML 5の仕様に含まれるCanvas機能は、Webブラウザ上で(Flashが得意とする)ベクター型の描画によるアプリケーションをスムーズに実現してくれます(Chrome Experimentsでその一端を見ることができます)。script.aculo.usやjQueryといったAjaxライブラリを使えば、リッチなユーザーインターフェイスがJavaScriptで手軽に実現できるようになりました。
ニコニコ動画もYouTubeも、いずれはFlashプラグインなしで見られる日がくるかもしれません。ただしビデオのコーデックのようなライセンスや技術が多様な分野はプラグインにしておく方が便利な点もあるので、一概に動画機能のプラグインが不要になるとはいいにくい面もあります。
とはいえ全体のトレンドとしては、FlashやSilverlightが提供しているようなマルチメディア処理、インタラクティブな処理の主要な部分は、WebブラウザやAjaxライブラリに取り込まれていく方向にあります。そのためのプラグインの重要性の低下は不可避だと僕は考えています。
ではなぜマイクロソフトは、重要性が低下していくマルチメディアプラグインの開発と普及に力を入れているのでしょう? アドビシステムズのFlashが気に入らないからでしょうか?
僕が考えるその理由は、Silverlightが戦おうとしているのはFlashではなくてWebブラウザではないか、ということです(そしてたぶんFlashも、その競合相手は同じくWebブラウザではないかと)。
続きはまた次回に(続きを書きました「SilverlightのライバルはFlashじゃなくて」)。