情報システム部門は「SOA」を改革の武器として使い始めた
複数のシステムを疎結合によって連係させる「SOA」(Service Oriented Architecture)が、最近になって再び注目されています。先月には主要ベンダのエンジニアによって「SOAマニフェスト」という原則の宣言なども行われました(参考:「SOAマニフェスト」が発表、SOAの意味が再定義された - Publickey)
SOAが最初に注目を浴びたのは2004年頃。当時はまだ実際にSOAを企業のシステム構築に採用できるほどの環境は揃っていませんでしたが、現在ではSAP、オラクル、IBMなど主要ベンダのほとんどがソフトウェア製品にSOAを実装しており、現実的なシステム構築に使えるようになってきました。またBPMN(Business Process Modeling Notation)やBPEL(Business Process Execution Language)といった、SOAを基盤としたシステム環境を表現し、実行するための技術も実用的になってきています。
こうした環境の変化が、再びSOAに注目が集まるようになった大きな理由の1つでしょう。
IBMは昨日、11月26日にこのSOAをテーマにしたイベント「IMPACT AUTUMN 2009 JAPAN SOA CONFERENCE」を開催しました。ちなみにIBMは今年春にもSOAをテーマにした「IMPACT」イベントを開催しており今年これで2回目の開催。そこからも同社のSOAへの傾倒ぶりが分かります。
基調講演では、実際に社内システムの構築にSOAを採用した3社の情報担当者がパネルディスカッションに登壇。企業の情報システムにおけるSOAはこれからどうなるのか、そして現在注目のクラウドとの関係はどう考えるべきなのか、などについて語ってくれています。
SOAとクラウドとの関係
司会 企業のシステム連係は、いまは社内外に広がり、また今後はクラウドとの関係も考えなければならない。こうした中でSOAをどう考えるのか?
松田 クラウドとSOAはどう関係するか? クラウドの仕組みとしてCAP定理というものがある。これは、分散したシステムの中では、一貫性、可用性、ネットワーク分断への耐性の3つを同時に満たすことはできないという定理。ここから、一貫性については一時的に崩れても、最終的に整合性がとれればいいというEventual Consistency(結果整合性)という考えがでてきている。
こういう考え方が出てくると、これからはアプリケーションのデータの持ち方も(一貫性を重要視した)リレーショナルデータベース一辺倒にはならないだろうと思う。(Eventual Consistencyを採用した)キーバリュー型のデータストアなども展開してくるのではないか。
今後は、SOAを使ったシステムでもCAP定理を意識して作るような大きな流れになるのではないかと思っている。
矢澤 当社は基幹はシステムはSystemiシリーズで、部門はIAサーバで部門ごとにばらばらに導入していた。それを仮想化技術を使いながら集約して、500台のサーバを集約したおかげで、リソースをITプロ(情報システム部)が調整できるようになった。
ガートナーの調査でも企業のサーバはCPUの利用率が10%程度だとか。SOAにすると通信やトランザクションが増えて必要なリソースが増えるが、サーバを統合して全体のリソース調整ができるようになったため、新たな投資をしなくともサーバ統合の中でSOAができるようになった。
つまり、サーバ統合とSOAとは、ある意味でセットになっていると思う。
さらに、サーバを集約することで、エンドユーザー部門はそれを使うだけ、という関係になる。中国からでもそうしている。サーバを集約するとアプリケーションも集約できるようになり、それがプライベートクラウドと同じように見える。エンドユーザー部門が独自でサーバやアプリケーションを持たなくていいということ。企業のITガバナンスを利かせるには、それがファーストステップになる。
業務改革の武器としてのSOA
司会 日産さんはグローバルでビジネスプロセスの可視化をしていらっしゃると聞く。可視化は多くの企業でも関心事になっており、SOA、BPM(Business Process Management)に関わると思うので、その取り組みを教えてほしい。
大関 この図が、情報システム部門が主体となって定義したビジネスプロセスの枠組み。まず言葉を揃えていこうというところからやっている。日産はグローバルだし関連会社でも生産や販売をしているため、各社の仕事の流れを定義しようとしたとき、同じ「受注」という用語でも、それはどういう意味なんだという議論が必ず起こっていた。
「受注」という言葉は同じでも、OEMやディーラーによって意味が違うし、部署によっても意味が違ってくる。言葉を揃えないまま可視化したとしても、次のステップでプロセスを標準化していこうとしたときにうまくいかない。
さらに、600個のビジネスプロセスに対してインプット、アウトプット、KPIも定義している。そうしないと、それがSOAに、サービスにつながっていかない。そのために自分たちでこういう挑戦をした。ようやくこれがまわりだして、いまはビジネスアナリストの人にこういう枠組みを理解してもらって、業務側とのコミュニケーションに使い出した。
情報システム部門というのは業務部門と密に連絡をしていくと同時に、(業務や部門を)横串でもみられる特殊な部門だと思う。その立ち位置を利用してこのチャレンジをしている。
司会 カシオさんでも情報システム部門が中心になってシステム作りを進めていると聞く。
矢澤 IT部門による業務改革は以前から概念はあった。しかしシステム的な壁、制約などがあったし、一方で業務部門からは全体を俯瞰するということがなかなかできなかった。
SOAが登場したことでシステムの壁や制約を取り払えるシステムインフラが出てきたなと思った。すると次の課題は、業務をAsIs(現状)からToBe(あるべき姿)へどうやって変えていくか、ということ。SOAが基盤になったことでここも大きく変えられるようになったと思う。
業務の人たちが把握していた業務の流れとシステムの実装はこれまで切り離されていた。しかしBPELが登場して、サービスなどがプロセスと一緒に定義できるようになり、ユーザーとIT部門が一緒に要件定義をしていけるようになった。
するとユーザーはToBeをより意識しやすくなって、AsIsからToBeへ行きやすくなる。これがIT部門の武器になり、バックエンドにはSOAの基盤を持っていて、ToBeのアイデアはユーザー部門が出すとしても、IT部門がそれをリードしていく。SOAにすることで、そういうIT部門の役割や武器が登場してきたなと思う。
SOAに求められる人材とは?
司会 SOAの時代にはどういった人材やリーダーが必要だろうか? またリーダーの果たすべき役割とは何だろうか?
大関 常日頃から思っているのは、情報システム部門を見るとその会社の善し悪しがかなり分かるのではないかと。仕事の流れや情報というのは、いまや8割や9割は情報システムに担われているからだ。ということは情報システム部門から会社を変えることもできるのではないか。根本から変えることはできないかもしれないが、情報の流れ、仕事の仕方というのは変えられるのではないかと考えている。
我々のような製造業の情報システム部門では、情報の流れ、仕事の流れを自分たちで作っていける。そのためにいろいろなプロセスの枠組みやアプリの枠組み作りを情報部門、ユーザー部門の大事な役割ととらえて、そこを担う人材を育てていきたい。ビジネスアナリスト、システムアーキテクトなどを育てている。
松田 やはり全体を見るセンスを持つような人間を育てていきたい。アーキテクトとは高度な技術をもっているのではなくて、高度な技術を持つのはそれはスペシャリストであって、アーキテクトとは企業をどういう方向へもっていくとどう変わるか、といった全体が見られる人を育てていきたい。
また、(情報システムを進化させるには)一企業で頑張っても限界がある。ほかの企業との共同研究がますます大事になってくると思っている。SOAでは関東IBM研究会というところであったり、またそこが運営するSNSがあったりする。そういう情報交換に参加されるといいと思う。
矢澤 私自身長年IBMのユーザー会に関わってきて、いろんな話を聞いてきたが、いまだに情報システムは3K5Kという世界だ。
ITが進化している中で、なんで企業ITの現場がこういう現状なのかと憂いをもっている。SOAはそのブレイクスルーになる技術だと感じている。
仕事の結果が見えてくるとわれわれは喜びを感じることができる。使い手、作り手が喜びを共有できる、本来ITの現場はそういうものであったと思うが、そうなってない。SOAは過去の技術をひきずりながらも新たに有効化できる技術だと思うので、ITの現場がSOAで作る喜びをもういちどもってもらったらなと思っている。