クラウド時代にSIerはどう変わるのだろう? セールスフォースの展示会場に飛び込んで聞いてみた

2009年9月16日

クラウドの登場によってSIerの収益モデルが脅かされようとしています。その主な理由は2つあります。

1つは、プラットフォームとしてクラウドを利用することで、いままでの受注案件に含まれていたハードウェア費用、冗長構成のための作業費など高い利益を得られていた部分がなくなり、ソフトウェアの開発費用のみが丸裸になること。

もう1つは、そのソフトウェア開発でさえ、Salesforce CRMのようにSaaSが普及することでスクラッチからの開発が減って開発内容はカスタマイズ中心にシンプルになり、開発期間も短くなるため、案件あたりの単価が低下すること。

このような状況にSIerはどう対応していけばいいのでしょうか? その疑問を解くため、昨日、9月15日に都内のホテルで行われたセールスフォース・ドットコムのイベント「Cloudforce Japan」の展示会場に飛び込んで、すでにクラウド対応のビジネスを始めているSIerの話を聞くことにしました。お話を聞けたのは中小規模の2社のSIerです。どちらのSIerも受託業務を行いつつも Salesforceに対応したサービスを展開しており、そのサービスを紹介するために展示会場にブースを構えていました。

fig Cloudforce Japanの基調講演会場。この隣の展示会場でSIerに話を聞いた

クラウド案件では単価は2桁下がる

1社目。元々データベース技術に強く、受託開発中心のSIerでWeb系の案件が多い、以前からクラウド系の案件にも積極的にかかわってきた企業です。事業部長クラスの方にお話をうかがいました。

案件の価格の話からうかがうと、従来のシステム構築案件とクラウド案件では価格が2桁も下がることがあるとのこと。つまり、数千万円クラスの案件が数十万円になってしまうわけです。ただし、やはりクラウドではサーバを買う必要もないし面倒なバックアップも不要でこんな楽なプラットフォームはなく、もう高いサーバを購入して手間のかかる運用をする世界には戻れないだろう、とのこと。

単価が下がるけれども、開発内容も簡単になるため、若いエンジニアを積極的に開発に投入するなどで原価を下げる努力もしているとのことです。Salesforce.comでは簡単な開発ならAccessよりも簡単にできるから、とおっしゃっていました。

もちろん表示部分や簡単なロジックなどは簡単に作ることができるけれども、プログラミング言語のApex(Force.com Codes)でのプログラミングなどもあるので、そういうオブジェクトにからむ部分や複雑なコントローラの部分はベテランプログラマの出番になるそうです。

しかし従来のSI案件と比較すると、そうしたベテランプログラマ、高度な技術を持つエンジニアの能力を発揮する場面は明らかに減っているとも言っていました。高度なデータベーススキーマの設計やチューニング、冗長構成の設計などはそもそも必要ない、大規模なプログラミングの出番が少ない、といった理由です。

その代わり、顧客の課題をどうやって解決するかという、コンサルティングの部分によりフォーカスすることになるとのこと。また、Salesforce.comのプラットフォームを使えば、業務アプリケーションならほぼ何でも作れるとおっしゃっていました。

「案件の単価がこれだけ安くなる、ということに抵抗はありませんでしたか?」という僕の質問には「しかし世の中がそういう方向に向かっていることは間違いない。ならばそれに対応する」という答えが返ってきました。

同社はすでに売り上げの約4割がSalesforce.comがらみの案件で、来年度以降さらにクラウド案件に注力していくとのことです。

業務の理解、的確な提案が重要に

もう1社も100名弱の社員を抱える、中小としてはやや大きい部類のSIer。業務アプリケーション系の案件が多く、パッケージにも積極的に進出しています。現場のエンジニアの方に話をうかがうことができました。

この企業では社内が通常のSIチームと、Salesforceをベースとするクラウド対応のチームに分かれており、両者の売上比率はおおよそ3対1。まだクラウド案件は金額で従来のSI案件には追いついていないとのこと。

その理由として、クラウド案件の方がサイクルが速く2~3カ月でこなすことが多く単価も安くなるためだそうです。しかし社内的には今後クラウド案件が増えていくと見込まれています。

こちらの企業でもやはり、クラウド案件ではベテランのエンジニア、データベースとかプログラミングの能力を発揮する場面はあまりなく、それよりも顧客のニーズをすばやく理解するとか、すでに似た顧客の経験があり的確な提案できること、といったスキルが大事になっているとのことです。「僕は説明べたなので、まだまだです」と、お話を聞いたエンジニアの方はおっしゃってました。

企業とともにエンジニアのスキルも変わらなければならない

両社の話はほぼ一致しています。つまり、クラウド時代のSIerに要求されるのは従来のような高度な技術力とは異なってきており、顧客の問題をいかに早く理解し、解決策を提示するか、というコミュニケーションと提案能力の重要性が高まっている、ということです。

この能力がSIerにとっていままで重要でなかったわけではありません。しかしそれ以上にこれまでは、システム構築やプログラミングといった技術的な部分の問題解決能力のほうが重視されていたのです。

しかしクラウドによってシステムの技術的な複雑さ、難しさは隠蔽され、ITによる問題解決の実現は容易になってきています。そこで自然と、顧客の問題を把握し、解決するためにどのような提案をすればいいのかという部分の重要性が高まってきているのではないでしょうか。

そしてこれはSIerで働くエンジニア個々人にとって、どのような能力を持つ人が優秀な人材として所属する企業や顧客から評価されるのか、という優秀さの定義も大きく変えようとしていることは間違いありません。

クラウドは世界へ進出するプラットフォームにもなる

ところで、会場ではパッケージベンダからも話を聞くことができました。帳票を主力とする日本オプロは、Salesforce CRMなどに対応した帳票サービスを提供しています。同社がクラウドをどう捕らえているかというと、世界へ進出するためのプラットフォームとして捕らえているそうです。

パッケージという形態でソフトウェアを販売するのではなく、クラウド上のサービスとしてソフトウェアを提供することで従来よりずっと低コストで効率的にグローバルな市場へ出ていけます。特にSalesforce.comではAppExchangeというマーケットが用意されているため、それに乗って容易にグローバルへ進出できる点も大きいと指摘していました。

クラウドの登場による変化をどうチャンスに変えていけるのか、企業も個人も真剣に考えなければならない課題ですが、そのヒントになる話が聞けたのではないかと思います。

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Junichi Niino(jniino)
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