パッケージソフトからSaaSへと主戦場が変わるCRM市場
SaaSが大きなトレンドとなったのは、紛れもなくSaaSモデルの先駆者であるセールスフォース・ドットコムの成功によるところが大ですが、先日、そのセールスフォース・ドットコムが国内のCRM市場でトップシェアを獲得したという記事がTechTargetに掲載されていました。
IT調査会社のアイ・ティ・アールが2008年7月から8月にかけて調査した結果、日本オラクル、SAPジャパンを押しのけて、セールスフォース・ドットコムがシェア13.5%で1位を獲得。2位のSAPジャパンのシェアとの差はわずか0.2%でしたが、今後差は広がると見られているようです。記事から引用。
「セールスフォース・ドットコムはもともと中堅・中小企業に強かったのですが、日本郵政への導入を皮切りに、大企業をも取り込んでいます。幅広い企業規模で導入が進み、今以上にシェアを伸ばすとみています」(甲元氏)
SaaSモデルのCRMを提供するのはセールスフォース・ドットコムだけではありません。日本オラクルは買収したシーベルの製品を基に、2006年9月から「Oracle CRM on Demand」(旧Siebel CRM on Demand)を展開中、SAPジャパンは「SAP CRM On-Demand」を展開中。CRM市場に新規参入してきたマイクロソフトも「Microsoft Dynamics CRMのSaaS/ホスティング型」を提供しています。セールスフォース・ドットコム同様、SaaS専業ベンダとしてはネットスイートもあります。
国内製品では、富士通中部システムズの「CRMate」、NIコンサルティングの「顧客創造日報シリーズ」などもSaaS/ASP型の製品を提供しています。
営業報告と集計が中心のSFAに比べて、CRMは顧客と接触するすべての部門、例えばコールセンターや資料請求窓口、サポート担当、マーケティング部門、そして営業部門など多くの組織が関係するため規模が大きくなりやすく、基幹業務系として安定運用がより強く求められます。
SaaSはこうしたニーズに合致するメリットがある一方で、顧客情報を外部運用のサービスに置いていいのかといった懸念や、多くの組織が関係するがゆえにカスタマイズの要求が強いという事情があります。特にセキュリティについての懸念はSaaSならではのものですし、基本的に顧客すべてに同じサービスを提供することで規模のメリットを働かせるSaaSではカスタマイズも得意ではありません。
しかし、SaaS型のCRMがシェアで1位となったこと、それが1社の調査会社だけの結果だということを割り引いて考えても、SaaS型のCRMが高い成長率を維持していることは、セキュリティの懸念を補って余りあるメリットや十分なカスタマイズ性があると顧客が判断しはじめているのでしょう。
ITmediaエンタープライズの記事「アナリストの視点:SaaS型がシェア50%超え目前 2009年には自社運用型を上回る 」でも、矢野経済研究所が2008年以後のCRM市場の見通しを解説していますが、そこでもSaaSが主役だとしています。
今後もCRMアプリケーション市場はSaaS型の成長をエンジンに拡大し、2011年には約249億円になると予測する。
なぜCRM市場でSaaSが台頭してきたのか、この記事では以下のように分析しています。
CRM市場ではビジネスの単位が小粒になってきており、オンデマンド型の方が現在のユーザーニーズに合致しているといえるだろう。
ITproの記事「2009年のSaaS世界市場は22%成長の96億ドル,2013年には160億ドル規模へ:ITpro」では、ワールドワイドなソフトウェア市場でもSaaSの成長が続いていることを、調査会社ガートナーのリサーチ・ディレクタが指摘しています。
「短期間での導入および投資回収が可能なことや,先行投資が少なくて済むことなど,さまざまな要素がSaaSの普及をけん引している」と述べる。
いまのところ企業がSaaSを導入するきっかけとしていちばん多いのは、メールなどのメッセージングをアウトソースすることですが、その次にSaaS化されるのはどうやらCRMだというシナリオが見えてきたように思います。
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