プラットフォーム争奪戦はモバイルを巻き込む総力戦(前編)
今後、デスクトップアプリケーションはWindows OSのようなクライアントOSをターゲットにして開発されるのではなく、アドビシステムズのAIRやSilverlight、そしてChrome OSの上に載るWebブラウザなどの「クライアントミドルウェア」をターゲットに開発されるようになる。
つまり、アプリケーションのプラットフォームはOSからミドルウェアへと変化している。という話を、記事「Windows時代の幕引きをねらう、Silverlight 4とAIR 2とChrome OS」で書きました。
そして、この記事で以下のように予想しました。
Windowsからアプリケーションプラットフォームの座を受け継ぐのは、果たしてAIRなのでしょうか、それともSilverlightになるのか、はたまたHTML5という標準になるのでしょうか。今後その競争はますます激しくなると予想されます。
しかし書いた後でよく考えると、これには間違いが含まれているような気がします。この言葉のどこに間違いが潜んでいるのか、そしてデスクトップアプリケーションのプラットフォームを巡る戦いは、本当はどこで行われているのか? 今回の記事はそのことについて書きます。
SilverlightにもAIRもHTML5は対応する
前回の記事では上記のように「AIR vs Silverlight vs HTML5」という構図で見ていました。しかし、どうやらAIRもSilverlightもHTML5には対応する見通しです。
AIR 2では最新のWebKitに対応した結果、HTML5への対応を行うとしていますし、SilverlightではHTML5への対応についての情報はありませんが、Internet Explorer 9ではHTML5に対応すると発表されていますから、いずれSilverlightもHTML5に対応すると考えるのが自然でしょう(参考:[速報]Internet Explorer 9初披露、HTML5対応、DirectXで描画。Silverlight 4は今日からβ公開)。グーグルのChromeは、いわずもがなHTML5対応です。
そうなるとすべてのプラットフォーム候補がHTML5に対応しますから、「XXXX vs HTML5」という構図は正しくなくなります。この点が、前回の文章を振り返ったときに「間違っていた」と感じる部分です。
では「デスクトップアプリケーションの標準プラットフォームに、HTML5がなる!」と言い切っていいものでしょうか? そうとも言い切れないようにも思います。やはりSilverlightやAIRにとっては、あくまでも標準であるHTML5にも対応したうえで、そこに付加価値を備えた実装によって競争していくという意志を感じます。Chrome OSでさえ、HTML5の仕様に準拠したうえで、安価なマシンで高速に起動するといった付加価値によって他のプラットフォームと競争しようとしているといえます。
つまり、やはりいま起きているのは「AIR vs Silverlight vs Chrome OS」という実装による競争であって、HTML5はその競争に参加する前提条件となっているというのが、より正しい認識のように思います。その競争に参加する前提条件として標準仕様が存在するというのは、標準の望ましい1つのありかたといえるでしょう。
そしてここにあげた3社が実現しようとしている戦略に沿って考えると、アプリケーションの世界にもう1つ新しい現象が起きようとしていることが見えてきます。それは、PC用のデスクトップアプリケーションとモバイルデバイス用のアプリケーションの境目がなくなっていく、という現象です。
(後編につづく)