ベンチャーキャピタリストは何を考えて投資をしているのか?
モバゲーなどがヒットした「ディー・エヌ・エー」や、XMLソフト開発で知られる「インフォテリア」。いずれも株式公開を果たし成功しているベンチャー企業です。これらのベンチャー企業がまだ全く無名だった創業当時に投資をした「日本テクノロジーベンチャーパートナーズ」(NTVP)は、日本では数少ない独立系かつ創業支援を中心としたベンチャーキャピタル(日本では、創業から期間がたち成長の目途がついてから支援するベンチャーキャピタルが多いといわれています)。
そのNTVP代表 村口和孝氏が、青山学院大学の授業「技術系ベンチャー経営の戦略と実践」で公開講座を行うと聞き参加してきました。この授業はインフォテリアの平野洋一郎社長が講師を務めるコースで、その1コマとして現役のベンチャーキャピタリストに登壇してもらい、公開講座となったもの。
いまベンチャー投資はどういう状況にあって、その中でベンチャーキャピタリストは何を考えて投資をしているのか。現実に第一線で活動しているベンチャーキャピタリストから語れるのは貴重な機会でした。
村口氏は、ベンチャーキャピタリストに対するイメージにありがちな「きれいなスーツを着て、最新のビジネスモデルとテクノロジーのあいだを飛び回るスマートな投資家」とは対局的です。ベンチャー経営者の人間性を見抜こうとし、地道に企業の将来性を考え抜いて判断しようとしています。
僕も何人かのベンチャーキャピタリストと仕事をさせていただく機会が過去にありましたが、こうしたタイプの人は少なくありません。それゆえ、お話の内容は非常にリアルに感じました。
以下から、その村口氏による公開講座の内容を抜粋して紹介しましょう。
IPOの数倍にのぼるM&A
ベンチャー投資というものには、未公開の会社の株を安く買って、その会社が上場したら高く売って儲かる、という金融的な表層とは全く異なり、きわめて非金融的なプロセスが横たわっている。今日はその非金融的なプロセスのお話。
米国のベンチャー投資の出口もIPOからM&Aへ変わってきている。2001年から2002年前後のIT不況以来、米国のベンチャーキャピタルの投資先の出口はM&AがIPOの数倍にのぼる。すなわちベンチャーキャピタル投資から上がる収益の主力は、公開市場による株式売却でなく、他企業への株式売却によるキャピタルゲインである。
これは背景に「ホールプロダクト戦略」がある。社会の中で新しいモノをセットでそろえていく「ホールプロダクト戦略」はシリコンバレーではますます鮮明になっている。
とはいうものの、ベンチャーキャピタルとしてはIPO(株式公開)を前提に投資するしかないし、それが目標としては正しい。M&Aを目標にして会社を立ち上げるのは現実には難しい。なぜかといえば、例えば3年後にホールプロダクト戦略によってどこかに買収される、といったことを狙うことが難しいから。
であるから、ベンチャーの起業は間違いなくIPOを目指して準備した方がいいし、その方がうまくいく。その過程で、もしかしたらホールプロダクト戦略で買収されることもあるだろう、と考えるべき。
シリコンバレーは日本の「系列」に学んだ
シリコンバレーの超有名なベンチャーキャピタルである「クライナーパーキンス」が、日本企業が強かった80年代に日本を研究して学んだことは「系列」である。
例えば当時NECや三菱は自社のメモリを自社のPCに優先的に使っていた。系列をうまく利用していた。一方で米国では、自社製品といえども使う部品については社外との合い見積もりをとって決めるなど、自社製品や関連会社だから買ってもらえるとはかぎらなかった。
しかし、クライナーパーキンスが投資していたネットスケープは当時なぜ上場できたかといえば、その売り上げの源泉はクライナーパーキンスの別の投資先がネットスケープのホームページにバナー広告を出したからだ。これで上場できたのってインチキっぽくない? でも、それが「系列インベストメント」だとして、彼らはそういうベンチャー投資をしてきた。
系列に学んで、ベンチャーキャピタルやベンチャー企業でのプライベートなコミュニケーションは、むこう(シリコンバレー)では大事にされていて、みんなで協力してベンチャー投資をやってるように思える。一方で、現在の日本はできるだけパブリックにしなければならないと思われている。しかし、逆ではないのか。本来、日本はこうしたコミュニケーションが得意だったはずだ。もっとそれを活かそう。
桃太郎は経営学の話である
民話。桃太郎のおばあさんは、きびだんごを桃太郎に投資したら、鬼退治した桃太郎が宝の山を持って帰ってきた。きびだんごが数十億になって返ってくるという、ものすごいベンチャーキャピタリストだ。
桃太郎は、もらったきびだんごを自分で食べるのではなく、それを資本にして、さる=知恵、キジ=情報、イヌ=忠誠心を雇う。知恵、情報、忠誠心によって宝の山を持って帰るという寓話であり、桃太郎は経営学の話である。
しかも桃太郎は「鬼退治なんか無理だ」という村の大反対の中、少数意見と手を組んで村を出たはず。鬼退治はベンチャービジネスだった。
つまり難しいベンチャー論じゃなくて、もっとやさしいものが大事。私はうちの嫁に投資先の社長を会わせる。それで、どんな感じかを聞く。そういう素朴な判断力が大事。そうすれば、ほとんどのベンチャー投資は成功すると思う。
自分が大学生のときにベンチャー投資ビジネスのことを知り、もっと詳しく知ろうとシリコンバレーに訪問して聞いた。「MBAは必要か?」「Not Neccesary」「なにが大事?」「人間の理解だ」「僕は大学でシェークスピアの演出ばかりやっていた」「That's it!」
人間理解が大事だといわれて、ベンチャーキャピタリストになる決心をした。
そしてその後、誰よりも経営者と会い続けてきた。会議にも出ず組織人としては失格だったが、投資先の六割がた上場に成功し、異能人と呼ばれてきた。
最先端ビジネスにはマーケットデータはない、可能性は説明不可能だ
会社の中でベンチャーキャピタリストとして働いて分かったこと。時代の最先端ビジネスにはマーケットデータはない。新しいフロンティア企業のビジネスモデル(の将来性)は証明不可能。そんなものへの投資を組織の中で通すのはほとんど不可能だ。
そうした企業を支援するベンチャーキャピタリストはつねに少数派に属する。
会社のような合議制の組織でベンチャー投資を進めるのは無理があると考えた。独立が必要だと。そこで1994年に「日本テクノロジーベンチャーパートナーズ」創業。日本で、創業支援のできる個人創造的なベンチャーキャピタル事務所を目指す。
質疑応答
――― なぜM&Aが増えてきたのか? また日本の状況はどうか?
エンロンの事件などで内部統制がきびしくなったり、それに現場が可能に反応している面もあり、IPOにコストがかかるようになってきた。また、上場してもいい値段がつかないことも増えてきた。
しかしIPOはなくならないと思う。ベンチャーキャピタルからの投資は傾向として増えているので、IPOが減っているのならM&Aが増えるのは必然でもある。
またホールプロダクト戦略で、マーケティングにおけるインテリジェントの整理の仕方が発展してきたため、とも思っている。
日本の状況は、M&Aがやっぱりある。不景気を乗り越えていく上で、一皮剥けるかなと、M&Aに対して。そういう時代になってきていると思う。
――― どういったところを見て投資しているのか?
投資を決めるのには半年から数カ月かかる。いろいろ調べては必死に悩むしか、創業支援型のベンチャーキャピタルでは方法がないのではないか。調べ尽くして、これでいこうと思っても「やはりだめかも」と夢にでてきて、朝あわてて電話して話を聞いたりすることもある。
あとは投資したときのストーリーを忘れて、本当にいちばんそのプロジェクトにとっていいサクセスストーリーを再定義し続ける作業が必要だろうなと思う。大手のベンチャーキャピタルは、最初の事業計画からずれるかどうかをずっとみていることもある。事業環境は変わっているのに2年前の事業計画にこだわるベンチャーキャピタルも多くて、そのせいで藻屑となった会社もたくさんある。
しかし「あいつは5年前の事業計画をちゃんと持っていて経営者をどなりちらす」というのが「経営者のいいなりにならないちゃんとしたベンチャーキャピタリストだ」なんて組織の中で持ち上げられたりする。
――― こういう社長は投資するというのはあるか?
その領域に関して、ものすごい深いか、ものすごいとんがっているか。逆に、一週間たっても言ってることが変わらない。二週間たっても変わらない。そんな人に二年投資しても変わらないだろう。業界は変わっているし、事業計画を一週間という時間で考えたら(言うことは)変わるでしょう。そんなところを見ている。
――― ベンチャーキャピタルに会う前にどうすればいい?
(質疑応答からは、サンブリッジのベンチャーキャピタリストの祐川京子氏も参加、これは祐川氏の回答)上場した社長の友だちをたくさん作ってアドバイスをもらえばいいと思う。どのベンチャーキャピタリストに会うべきとか。そうすると下手な鉄砲を撃たなくてよくなる。有望なビジネスだったら、例えばベンチャーキャピタルの食い物にされてしまうこともあるし。変なところに投資してもらって、あとからあそこはやめればよかったなあということもある。そういった意味でもほかの社長の友だちや人脈が大事だと思う。