クラウドよりも最適化された企業のデータセンターの方が低コスト、との調査結果

2009年10月28日

米調査会社のIDCが9月29日にロンドンで開催したイベント「IDC's Cloud Computing Summit 2009」で、同社の欧州システムグループ所属コンサルタント Matthew McCormack氏は「最適化された企業のデータセンターは、3年以上運用するとトータルコストがクラウドの利用コストよりも下がる」という調査結果を明らかにしました。

McCormack氏は講演の中で、典型的な企業の大規模システムをデータセンターで構築し運用した場合と、同様のサービスをクラウドの利用で得た場合のコストを比較。最適化された企業のデータセンターは、初期投資こそかかるものの運用コストはクラウドの費用を下回り、結果として3年でトータルコストがクラウドを下回るという結果を示しました。

fig 初期投資として500万ポンド(約7億5000万円)のシステムを想定。大規模な業務システムを100%企業のデータセンターで稼働させた場合と、同様のサービスをクラウドのサービスとして利用した場合の費用をグラフ化したもの。3年でトータルコストが逆転しているのが分かる

ただしこのようなことが可能なのは、システムに対するワークロードを適切に予測し、30%ずつ設備を更新することでビジネスからの要求に順調に対応できる、適切に設計運用されたデータセンターの場合であり、そうでない場合にはクラウドのコストの方が相対的に割安になるともMcCormack氏はもう1つのグラフで示しています。

fig 初期投資として同じく500万ポンド(約7億5000万円)のシステムを想定。ただし、ワークロードの予想を外し、3年後に約半数の機器をより高性能なものに入れ替え、6年後にも新規に設備を増設し、設置スペースが不足したため費用のかかる入れ替えも発生。こうしたことでクラウドを大幅に上回るコストが発生

そして多くの企業では最適なデータセンターの運用ができないだろう、ともMcCormack氏は付け加え、自社のデータセンター、つまりオンプレミスで行くかクラウドを利用するかは、今後5年のIT投資と運用コストを吟味し、1年ごとの企業内データセンターのワークロードを予測、さらに今後のビジネスニーズにそれらが合致するかどうかを検討した上で判断すべきとしています。

さらにMcCormack氏は今後のクラウド市場ではさらにコストが低下する一方で、圧倒的な勝者が登場することはなく、さらに多くのプレイヤーが登場すると予想しています。

fig

McCormack氏のプレゼン資料はIDC's Cloud Computing Summit 2009のページからダウンロード可能です。

オンプレミスでコスト安となるのは大企業だけ

コストのことだけを考えれば、自社でデータセンターを抱え、オンプレミスによるシステム運用を選択できるのは十分な能力を持ったIT部門を持てる一部の大企業だけということになりそうです。

しかしMcCormack氏の調査は、システムを全部オンプレミスかもしくはクラウドにした場合のコスト比較であり、やや単純すぎるといえるかもしれません。多くの企業では多少コストがかかろうとも業務の一部はオンプレミスで運用するでしょう。セキュリティや相互運用性、柔軟性などを要求するシステムは、クラウドで実現するよりも自社で構築した方がコントロールしやすく、コストがいくら安くてもクラウドでは埋められないギャップが存在するためです。

ただしMcCormack氏が予想するように、今後さまざまなニーズに対応したクラウドサービスが登場することは間違いないでしょうし、企業はそうしたクラウドを目的や用途に応じて利用できるようになるはずです。

Cloud Computing Too Costly in the Long Term? | Linux Developer Network

The Linux FoundationでコミュニティマネージャをしているBrian Proffitt氏は、このMcCormack氏の講演をブログ「Cloud Computing Too Costly in the Long Term? | Linux Developer Network」で取り上げて次のように書いています。

Right now, cloud computing is a lot of buying a hybrid car here in the US was a few years ago.

クラウドコンピューティングは数年前の米国でのハイブリッドカーの状況に似ている

数年前のハイブリッドカーは選択肢も多くなく、割高で珍しい買い物でしたし、燃料の節約で元がとれるかどうかも難しいところでした。しかし現在では多くのモデルが複数の自動車メーカーから登場し、コストも下がり、消費者の意識も変わり、珍しい買い物ではなくなりました。

The same will hold true for cloud computing. Yes, right now, there is a need to carefully weigh out the costs involved in using cloud computing for your company. But in the near future it should become increasingly more common to see the cloud as a better economic option as costs come down.

クラウドコンピューティングも同じことがいえるだろう。現在のところ、企業でクラウドを利用するにはコストなどについて注意深く検討する必要があるけれども、価格がさらに安くなってくれば、より経済的な選択肢として一般的になってくるはずだ。

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Junichi Niino(jniino)
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