「惑星間インターネット」への取り組みを語るインターネットの父、ヴィント・サーフ氏
ヴィント・サーフ(Vint Cerf)氏といえば、インターネットの前身であるARPANETに関わり、TCP/IPやインターネットの開発に貢献した「インターネットの父」の1人と呼ばれています。そのサーフ氏が、米シンギュラリティ大学でインターネットの歴史と現在、そして彼が現在取り組んでいる惑星間インターネットのプロジェクトについて講義を行いました。
サーフ氏は最初に、彼もその一員として取り組んだ1969年12月時点のARPANETの図を示し、これが「インターネットの前身といえる」と説明します。そして、このARPANETのデモンストレーションが非常に成功したために、ネットワークはさらに拡大していくことになります。
1977年の後半には複数のネットワークを束ねるためのマルチプルパケットスイッチを実現し、米国内だけでなく、衛星経由でのロンドンへの往復通信にも成功します。往復通信に成功したときには「It works! It works!」と大喜びだったそうです。
そしてそれがインターネットとなり、巨大で相互接続されたネットワークへと発展していくのはご存じの通り。
2009年時点では、インターネットに接続されたサーバが約6億2500万、利用者は15億9600万と推測されています。
サーフ氏は、2009年は大きな変化の始まりの年ではないかとし、その理由としてIPv4におけるIPアドレスの枯渇によってIPv6の導入がはじまろうとしていること、セキュアなインターネットのためにDNSSECの導入が始まろうとしていることなどを挙げています。
またクラウドの相互運用性、セキュリティ、知的所有権の問題、セマンティックWebなど、今後のインターネットの課題についても触れるとともに、将来にわたる超長期にメディアや読み取り機器の限界を超えてデジタルデータをどう保存していくのか、科学や芸術の面からも過去のデータを参照することは非常に大事で、それも大きな課題として挙げています。
そして最後の話題としてサーフ氏が用意していたのが、1998年に始まり現在も続いている惑星間インターネットのプロジェクトです。
地球外惑星へは、1976年にNASAがバイキング計画によって火星に探査機を送り込むことに成功、2001年には火星の地面を走るローバーも送り込みました。
現在NASAのジェット推進研究所では、この先もっと複雑なミッション、複数の探査機や宇宙船、惑星表面の機器などを多数運用しなければならなくなったとしたら、どのようなコミュニケーション手段が適切だろうかと研究しているとのこと。
火星の地上探査機ローバーは当初、地球と直接通信していたのですが、ある日オーバーヒートしてしまい、運用サイクルを見直して通信速度を28kbsまで低下させざるを得ませんでした。そこでジェット推進研究所はローバーによる地球への通信を、火星軌道を回り火星表面の地図を作成しているオービター経由で行うことにし、オービターとローバーを再プログラミング。これが成功して128kbpsでの通信が可能になったとのこと。そしてこれは、インターネットの仕組みをエミュレートしたものだそうです。
NASAではこのように宇宙探査や惑星間通信に、インターネットのデザインを利用する方向に向かっています。
しかしTCP/IPをそのまま宇宙で使おうとすると、地球と火星は光でも最低3分半かかるほど非常に遠く、TCP/IPのフローコントロールは単純でうまく動作しません。さらに火星も自転しており、地上の通信アンテナなら通信可能な位置から外れるときもあるわけです。つまり、惑星間通信はときどき遅延したり途絶したりする。こうした状況に対応するプロトコルを開発中だとのことです。
そして昨年の10月にディープインパクト計画で惑星間通信プロトコルを実験し、問題なく動作することを確認。その後、国際宇宙ステーションでも実験をしており、今年の8月か9月にエポキシと名前を変えたディープインパクトで再実験。これまですでに3カ所でテストをしています。
もちろん惑星間プロトコルは標準化を行い、NASAだけでなくオープンにしていくつもりだそうです。
そして数十年後には、インターネットが太陽系にも広がっていくことが期待されています。インターネットでは驚くべきことが始まろうとしていて、でも私が生きているあいだには見られないかもしれないしれないかもしれないね、というところで、サーフ氏の講義は終わりました。
以下がサーフ氏の講義を収録したビデオ、約50分です。