仮想化のメリットと課題について、導入済みの大手企業はどう考えているのか?

2009年10月21日

仮想化とクラウドは、今年2009年の2大キーワード。すでに多くの企業では仮想化を導入、もしくは導入を検討しているところでしょう。その仮想化の分野でトップを走るヴイエムウェアが、日本でのプライベートイベント「VMware Virtualization Forum 2009」を10月20日、21日に開催しています。

1日目の基調講演では、すでにVMwareを導入してシステムの仮想化を実現している大手企業が3社登場し、仮想化は業務システムのなかで本当に使えるのか? メリットや課題はどいうものがあるか? といったテーマでパネルディスカッションを行いました。

仮想化をすでに導入している企業は、その現状およびメリットと課題をどう感じているのでしょうか? 発言を拾ってみましょう。

fig パネルディスカッションのパネリスト。左から、中外製薬 永井秀明氏、日本ユニシス 角(かど)泰志氏、三菱東京UFJ銀行 根本武彦氏、ヴイエムウェア 三木泰雄氏。モデレータは日経コンピュータ 桔梗原(ききょうばら)富夫氏(写真には写っていない)

仮想化のメリットについて口火を切ったのは、中外製薬の永井氏。

永井「ちょっとしたサーバの要望に対して買ってくる必要がない。これが最初の実感。そのときはまだフリーウェアのVMwareを若手がおもしろいといって見つけてきて評価していた。で、気がついてみると、社内にはときどきしか使われない小さなシステムがたくさんある。でも1年に1回は使うので捨てるわけにもいかない。そこで、小さなシステムをVMwareを使って『まきとる』ことをはじめた。つまりサーバの集約。

このときにメリットを実感した。本番で使っているシステムもVMwareでまきとってみて、これはいけると思った」

集約は、多いもので1台のサーバに10台分くらいをまとめたものまであるといいます。そして永井氏によると中外製薬では、大きなシステムも仮想化へ移行している段階だそうです。

永井「製薬業は厚生労働省や海外での規制を守らなくてはならず、規制に沿った書類をコンピュータで作成する。この本番用システムはVMware上では実行できないだろうと思ったが、ちゃんとVMwareで動いている。

当社は安定した枯れたシステムを重視しているが、VMwareに関しては実績を積みながらこれは使えるという実感にいたった。プラットフォームとして信頼できるという段階にきていると思う」

続いてメリットを語るのは三菱東京UFJ銀行の根本氏。

根本「いまはテスト環境の仮想化に取り組んでいる。金融機関では何千という技術者に応援してもらいつつシステムを開発するため、開発期間も長くテストも非常に多い。しかし開発期間中にテスト用のマシンがフルで稼働しているかというと、そうではない。空いている時間がけっこうある。

では開発者がテスト環境に満足しているかというと、やはりマシンが足りない、という。開発のピーク時とメンテ時ではテストマシンの需要が変動するし、ある日付のテストの状況を保存して繰り返し何度もテストしたい、ということもある。VMwareを使うことで、サーバプールからすぐにサーバを取り出してテストに使うことができるようになったし、クローニング、キャプチャなどを使えばまったく同じテスト環境を簡単に作れる。テスト環境を用意する負荷が小さくなったメリットは大きい」

日本ユニシスのデータセンターでは、自動化のメリットがあると角氏。

「仮想化でコスト下げるという利点のほかに、意外と気付かない点がある。それは、サーバの調達が自由になること。従来型のシステムだと、ベンダーごとにサーバはここ、ストレージはここと組んでいくが、仮想化ではベンダが混在していても均質なサービスを提供できる。そのときにごとにコストメリットや最新技術をいれるられるので、メリットとしてはそこが大きい。

わたしどものクラウドセンターは、サーバもストレージもネットワークも全部仮想化している。そうするとサーバを新しく切り出すときなどもすべて自動でできる。おかげで作業のほぼ95%を無人化している。OSを入れた環境の用意に30~40分、アプリケーションまで入れても1日で用意できる。すると、いままでできなかったサーバをスポットで提供するサービス、お客さんがイベントで1週間使いたい、10日間つかいたい、あるいは数時間だけ使いたい、というサービスもこれからやっていきたいと思っている」

ヴイエムウェア社長の三木氏は、仮想化すれば電気代も節約できると補足。

三木「Distributed Power Managementという機能を使うと、夜間にサーバ負荷が減ったときには最小限のサーバにサービスを片寄せして、使っていないサーバは電源を切り、また負荷が上がれば、サーバの電源をいれて負荷を分散させるという機能もある」

一方、仮想化の課題については3社はどう考えているのでしょうか? 中外製薬の永井氏は、性能上の問題はほとんど感じていない、と答えています。

永井「複数のサービスを1つのサーバに同居させたときのリソースの取り合いは想像したが、実際にやってみると、あまり気にする必要はないなという実感だ。業務システムのSAP R/3もバックアップセンターでVMware上での稼働を開始したが、当然テストは十分にしており、問題ないと思っている」

VMwareを入れることで管理するレイヤが増え、不安定になったり管理が複雑になる、という懸念はどうでしょうか? 日本ユニシスの角氏が答えます。

「VMwareを使いながらサービスを提供しているが、この1年間やってきて仮想化によるトラブルはゼロだった。問題が起きるときは、人間がパラメータの設定をまちがっていたりするとき。管理の複雑さについては、例えばテストで100台とか200台とか同じ環境を揃えるためにOSやアプリケーションをインストールするほうがずっと大変で、仮想化してしまったほうが簡単に環境を揃えられる。仮想化でサーバリソースをプールしておき、それを必要なときに切り出して使う方が(物理的なサーバをいちいち用意するより)ずっと楽」

三菱東京UFJ銀行の根本氏も、仮想化は管理負荷を削減するという意見に賛成しています。

根本「仮想レイヤが増えた分管理がめんどうになりそうだが、仮想化というのは自動化へのステップであるし、(自動化されることで)将来の管理負荷は削減されるだろうと思っている」

ヴイエムウェアのイベントの基調講演で行われたパネルディスカッションですので、ネガティブな意見が正面から語られることはないのでしょう。それを念頭に置いたとしても、パネリスト全員のポジティブな発言は、実際の経験から得た説得力のあるものだったように感じました。

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Junichi Niino(jniino)
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