「デスクトップ仮想化」に関連する技術を整理してみる
「米国VMwareのCEO、ポール・マリッツ(Paul Maritz)氏は7月22日、『今後1~2年以内は、デスクトップ仮想化の本格的な普及は期待できない』との見方を示した」という書き出しで始まる記事がありました。
仮想化市場でトップを走るヴイエムウェエアのCEOが、デスクトップ仮想化の本格的な普及には時間がかかる、という率直なコメントを発しているこの記事を注目して読んでみたのですが、さて、ここでマリッツ氏が言う「デスクトップ仮想化」とはどんな技術を指しているんでしたっけ?
PCに関する仮想化技術はいまやたくさんのバラエティがあって、「デスクトップ仮想化」が何を指しているのか、どんな技術だったか、すぐには思い浮かばないことがあります。
というわけで、調べて整理してみることにしました。
PC上での仮想マシンの実行
まずは仮想化のいちばん基本的な技術、仮想マシンについて。
PCで利用するもっとも基本的な仮想化技術といえば、OSの上で仮想マシンを実行することでしょう。この技術は以前からとてもよく知られていますし、最近でも例えばWindows 7にも仮想マシン上でWindows XPを実行するといった機能が実装されるなど活用されています。
仮想マシンは、マイクロソフトのVirtual PCやサン・マイクロシステムズのVirtualBoxなど無償で提供されているものがあります。
また、最近ではシトリックスがデスクトップPC用のハイパーバイザーのXenClientの提供を予定しており、ハイパーバイザーを使ってデスクトップPCの上で複数のOSを並行して実行することも可能になりそうです。
サーバでデスクトップPC環境を実行
続いて問題の「デスクトップ仮想化」について。
PC用のOSやアプリケーションといったソフトウェア環境をすべてサーバ側の仮想マシン上に構築、実行し、クライアントとなるPCでは、その実行画面を表示しリモートで操作する。一般的にはこのことを「デスクトップ仮想化」と呼んでいます。つまりPC用のデスクトップ環境をサーバの仮想マシン上に移す、ということですね。
「デスクトップ仮想化」の利点は、クライアントPC側にはアプリケーションのインストールが不要で、データもすべてサーバに保管される。という点にあります。これによってPCの管理が簡単になり、またセキュリティも向上する一方で、サーバとネットワークへの大きな投資が必要となります。
アプリケーション仮想化とアプリケーションストリーミング
「デスクトップ仮想化」と似ているけれども、それとは異なる「アプリケーション仮想化」というのもあります。
アプリケーションというのは基本的には実行前にOSにインストールされる必要があります。アプリケーションの仮想化とは、このOSとアプリケーションを切り離しを可能にする技術です。具体的には、アプリケーションとその実行に必要なDLLやレジストリなどの周辺ソフトウェアをまとめてパッケージにしているようです。
アプリケーション仮想化によって、そのアプリケーションはインストール不要で動作するようになります。
そしてアプリケーション仮想化によって実現されるのが「アプリケーションストリーミング」です。サーバ側に仮想化したアプリケーションを置いておき、クライアント側でそれを呼び出すと、仮想化したアプリケーションがクライアントに転送され、インストール不要で実行できる、というもの。しかも、実行時に必要な部分のバイナリだけがクライアントに転送される、という仕掛けを備えているそうです。
デスクトップ仮想化では、アプリケーションの実行をクライアント側では行わず、画面イメージだけを配信するのに対し、アプリケーションストリーミングでは、アプリケーションの実行環境を含めたバイナリをクライアントに配信し、クライアント上でバイナリが実行される、という違いがあります。
これも、クライアントPCの管理コスト削減にメリットがありますし、アプリケーションのバージョンアップなどの際には、サーバ上のアプリケーションを1つバージョンアップすれば済むというメリットもあるようです。
また、ストリーミングサーバを利用しなくとも、仮想化したアプリケーションをUSBに保存しておけば、USBをPCに挿すだけでインストール不要でそのアプリケーションが利用可能になる、という使い方もあるようです。
ベンダやメディアによってまだ用語にゆらぎがある
調べた範囲では、ベンダや調査会社、メディアによって、用語の示す技術的な範囲や用語名が必ずしもすべて一致しているわけではありませんでした。例えば「デスクトップ仮想化」の意味としてPC上の仮想マシンでゲストOSを実行することも含む例がありましたし、アプリケーションストリーミングも含んでいるような使い方をしている例もありました。
さて、冒頭の記事に戻りましょう。ヴイエムウェアCEOのポール・マリッツ氏はデスクトップ仮想化についてこう述べています。
「デスクトップ仮想化技術に対する関心は高まっており、セキュリティやコンプライアンスなどを重視する金融サービス企業などを中心に導入の動きが広がっている」
だが、「これ以外の企業/組織では、今のところ明確な利点を見出せていない」
たしかに、デスクトップ仮想化のメリットはセキュリティなどに厳格な企業にとって非常にいいものだと思いますが、僕はそれ以外にも普及を妨げている要因があると思います。
それは、デスクトップ仮想化も含めて、デスクトップPCまわりではどの技術をどう組み合わせるのが適切なのかまだよく分からない、という点です。
ここで見てきたように、デスクトップ仮想化やその関連技術は種類が多く、発展途上でもあります。もう少しポイントを整理しつつ成熟させた上でSIerや顧客への理解を進めないと、まだまだ投資判断がしにくいのではないでしょうか?