グーグルの最新のデータセンターは非常識なほど進化している
昨日はITpro主催のイベント「ユーザー企業のためのエンタープライズ・クラウドフォーラム」に参加してきました。
日経コンピュータ 中田敦記者のセッション「みえてきたクラウドのコスト」では、グーグル、アマゾン、マイクロソフトの最新データセンターの動向を紹介してくれたのですが、これが非常に興味深い内容でした。セッションの内容からトピックを2つほど紹介します。
大規模データセンターは7倍効率がよい
1つ目は、日経コンピュータ2009年7月8日号で同記者が記事としても書いていることなのですが、データセンターの規模の経済について。1000台クラスの中規模データセンターと、5万台クラスのデータセンターを比較すると、大規模データセンターのほうが7倍も効率がよいというデータが示されています。
つまり、ユーザーがある大きさのコンピュータリソースを調達しようとするとき、大規模データセンターは中規模データセンターと比べて7分の1程度の価格でそれを提供可能かもしれない、ということです。クラウドベンダーにとって規模が勝負を決する大きな要素であり、先行する3社が巨大なデータセンターの構築に没頭している理由がよく分かります。
もちろん、実際にはこれほど単純な話ではなく、例えばセールスフォース・ドットコムは約1000台のサーバしか持たず、徹底的な効率化による低価格化を実現するなどの例も挙げられていました。
最新のデータセンターは冷房がない
2つ目のトピックは、「最新のデータセンターはエアコンを使わないのが常識」になっているという点です。
データセンターは電気代だけで年間数億円以上になるため、電力を有効に使えるかどうかがコストに大きく響いてきます。そのため、できるだけ余計な電力消費を抑えるようにしなければなりません。
日本でデータセンターといえば、耐震ビルの中にラックが並び、寒いくらいの冷房が効いている、というイメージがあります。
しかし、いまはグーグル、アマゾン、マイクロソフトともデータセンターにはビルのような建屋などなく、駐車場のようなところにコンテナを並べる方法が主流になっているそうです。そのコンテナにパイプで冷却水を供給し、外気と組み合わせることで、できるだけ電力を消費せずにサーバ群を冷却するのです。
さらにデータセンターの最先端を行くグーグルは「もっともっと非常識」だと中田記者は指摘しています。ベルギーにあるグーグルの最新データセンターはもはや冷房装置を備えておらず、しかもその一部はすでに稼働を開始しているというのです。
グーグルが2007年2月に「Failure Trends in a Large Disk Drive Population」という論文で、温度が上昇してもハードディスクの故障率が変わらないということを指摘しており、こうしたこれまでのグーグルの経験や調査が、冷房装置を持たないデータセンターを実現するための裏付けとなっているのだろうと中田記者は予想していました。
ベルギーに最新のグーグルデータセンター
中田記者のセッションを聞いたあとで、あらためてグーグルのデータセンターについて調べてみると、偶然にもDataCenterKnowledgeの昨日の記事に、その冷房装置を持たない最新のグーグルのデータセンターの解説記事「Google's Chiller-less Data Center」が掲載されていました。
記事によると、これまでのデータセンターでは、通常は外気と水冷を組み合わせて冷却し、外気温が高いときには冷房装置をさらに稼働させていたそうですが、その冷却装置を持たないデータセンターをグーグルがベルギーで運用開始したとのこと。
ベルギーの首都ブリュッセルの年間の平均気温は約19度から22度で、この気温が冷房装置を不要にすることを後押ししてくれていると、グーグルのエンジニアは説明したそうです。
温度が上がってきたらデータセンターごと切り替える!
この記事では「でももし気候が変わって気温が上がってきたらどうするのか?」と突っ込んだ質問をしていますが、それに対するグーグルの回答はまさに非常識なものでした。データセンターにまたがって負荷を切り替える、というのです。
Google says it will turn off equipment as needed in Belgium and shift computing load to other data centers. This approach is made possible by the scope of the company's global network of data centers,
グーグルの回答は、そのときにはデータセンターの機器をオフにして、負荷をほかのデータセンターに切り替える、というものでした。これは、グローバルにデータセンターをネットワーク化しているグーグルだから可能なことです。
つまりサーバが熱くなったら冷房で冷やすのではなくて、単にスイッチを切って冷めるのを待つというのです。そこまでして冷房を節約することにグーグルはこだわっているのですね。
そしてグーグルは、データセンターレベルでの休止やダウンのときにマニュアルで切り替えるためのツールを備えており、運用チームは定期的なメンテナンスのときに切り替え訓練も行っている、のだそうです。
グーグルは5月に「The Datacenter as a Computer: An Introduction to the Design of Warehouse-Scale Machines (PDF)」という論文を発表していますが、この表題のように、まるで故障時にサーバを切り替えるようにデータセンターを切り替える、というスケールの大きさには圧倒されそうです。
グーグルのデータセンターは月を追いかける?
しかもこの話には続きがあり、この記事ではさらに驚くべき考えが紹介されています。それは「月を追いかける(follow the moon)データセンター」というコンセプトです。
夜間は外気温も低く、また電気料金も安くなっています。そこで、世界中のデータセンターのうち、夜になっている地域のデータセンターだけを稼働させれば、低い外気温を活用でき、しかも夜間の安い電気料金を利用できます。これはクラウド技術者のあいだで議論されている構想ですが、グローバルにデータセンターを展開し、その負荷をダイナミックに切り替えられるグーグルであればそれを実現可能かもしれない、とこの記事「Google's Chiller-less Data Center 」では解説されています。
それはすなわち最先端のデータセンターにとっては、構築にかかる費用よりも電気代を節約するほうがずっと重要である、ということを示しています。たしかに、最先端のデータセンターはこれまで一般に考えられていたデータセンターのイメージからは全くかけ離れた、非常識なものへと進化しているようです。
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