マイクロソフトが激戦に勝利したオフィススイート市場の歴史は、オンライン・オフィス市場でも繰り返すか?

2009年7月16日

Microsoft Officeが現在のようなオフィススィート市場での圧倒的な勝利を獲得できた理由として、表計算、ワープロ、データベースといった個別の製品をひとまとめにパッケージングした「オフィススイート」戦略が果たした役割は大きい、といわれています。

そして、グーグルがGoogleドキュメント(Google Doc)で先行しているオンライン・オフィス市場でも、マイクロソフトは新たなスイート戦略で対抗しようとしています。

Microsoft Office成功の歴史

Microsoft Office登場以前、Lotus 1-2-3はExcelよりもずっと人気のあった表計算でしたし、Wordstarや一太郎はWordよりも人気のあるワープロでした。データベース製品ではxBaseと呼ばれる種類のデータベースに人気が集まっていました。

ところがマイクロソフトはDOSからWindowsへと切り替わるタイミングを上手に活用し、そのうえで個別の製品としては2番手、3番手の製品を1つにまとめてパッケージングし、いままで存在しなかった「オフィススイート」製品を作り出しました。オフィススイートは表計算やワードプロセッサなどのユーザーインターフェイスが統一され、連係して利用しやすく、必要なソフトウェアがまとめてインストールできるという特長があります。

それまで、表計算やワードプロセッサは別々のソフトウェアベンダから提供されるのが当然で、別々にインストールし、微妙に異なるユーザーインターフェイスを受け入れていた企業ユーザーにとって、オフィススイートは非常によいアイデアのソフトウェア製品として受け入れられていきます。

それまで表計算やワードプロセッサなどそれぞれの分野で戦ってきたLotus 1-2-3や一太郎は、Microsoft Officeとしてパッケージングされたオフィススイートに太刀打ちできなくなっていきました。

やがてMicrosoft Officeが一定のシェアを獲得すると、今度はクローズドなファイルフォーマットがオフィススイート市場への参入障壁となり、現在の強固なMicrosoft Officeの地位へとつながっていくことになります。

オフィススイート市場の新たな脅威

こうしてMicrosoft Officeの覇権の下で、オフィススイートは企業にとってすっかり定着した仕事の道具になりました。しかしここ数年、Microsoft Officeには新たなライバルが登場してきます。

オープンソースとして開発され無償で提供されるようになったオフィススイート「OpenOffice.org」と、Webブラウザから利用可能なためインストール不要で社外からも利用できるオフィススイート「Google Doc」です。

これらの登場に対して何も手を打たなければ、コストを優先的に考える個人ユーザーや企業ユーザー、基本的な機能だけあれば十分というライトユーザーが奪われていくことは明らかです。マイクロソフトの稼ぎ頭といわれているオフィススイート市場を守るには、何らかのアクションを起こすことが必要でした。

それがOffice 2010で登場するWebブラウザ版Officeである「Office Web Applications」ではないかと、僕は考えています。

新たなスイート戦略で戦うマイクロソフト

これらのライバルに対抗するために、マイクロソフトは再び新たなオフィススイートともいうべき戦略を採用しています。つまり、OpenOffice.orgとGoogle Docにそれぞれ対抗する無償版、Webブラウザ版を、既存のオフィススイートパッケージと一貫性のあるユーザーインターフェイスで提供する、統合した形で提供する、という戦略です。

Microsoft Officeにとっての新たな脅威となっているOpenOffice.orgとGoogle Docはそれぞれ別の製品であり、OpenOffice.orgにはWebブラウザ版はなく、Google DocはWebブラウザ専用でデスクトップアプリケーション版はありません。ユーザーインターフェイスも異なっています。OpenOffice.orgとGoogle Docを連係させつつ、用途や場所やデバイスによって使い分ける、といったことは困難です。

かつて、表計算とワードプロセッサとデータベースが別々のベンダから提供されていた状況に似ていないでしょうか?

これに対し、マイクロソフトは無償のWebブラウザ版、有償のWebブラウザ版、有償のオフィススイートをほぼ同一のユーザーインターフェイスで展開します。

多くの企業では、日常業務としてMicrosoft Officeを頻繁に使うユーザーと、たまにしか使わないユーザーに二分できるはずです。日常的にMicrosoft Officeを使うユーザーはいままでどおりPCにOfficeをインストールし、たまにしかOfficeを使わないユーザーはWebブラウザ版にすることでインストールが不要にできるため、運用が簡単になり、余計な手間も省けるようになります。

また、Webブラウザ版なら社外からも利用可能ですから、効率的な業務展開も可能です。

Office 2010のバージョンに対応したMicrosoft Online ServicesやSharePoint Serverでは、デスクトップ版とWebブラウザ版のOfficeユーザーを混在させ、ファイル共有することができると予想されており、こうした運用が可能になるはずです。

企業にとってこうしたデスクトップ版とWebブラウザ版の使い分けとファイル共有、そして一貫性のあるユーザーインターフェイスで操作ができるのは魅力的なはずです。Webブラウザ版しかないGoogle Doc、デスクトップ版しかないOpenOffice.orgの魅力は相対的には低下せざるを得ないでしょう。

しかし最大のライバルは別にいる

このマイクロソフトの戦略が功を奏して、かつてLotus 1-2-3やWordstarや一太郎を打ち負かしたように、OpenOffice.orgやGoogle Docを打ち負かしてMicrosoft Officeの黄金時代を続けることはできるでしょうか?

僕は、デスクトップ版とWebブラウザ版の連係や統合は非常によいアイデアで、企業にとって歓迎されるものだと予想しています。引き続き多くの企業ではMicrosoft Officeの採用が続き、それをOpenOffice.orgやGoogle Docが脅かすところまで浸食するのは難しいと考えています。

そうした機能にこだわりのない無料ユーザー、ライトユーザーに対しても、無償のWeb版Officeは健闘するでしょう。マイクロソフトはWeb版Officeの大きな特徴として「忠実なOfficeファイル表示と互換性」をアピールしており、この点が弱い競合製品に対して非常に有利に働くと思います。

しかし、実はOffice 2010の最大の最大のライバルは別にいます。誰もが分かっていることですが、多くのユーザーにMicrosoft Officeは「過去のバージョンで十分満足」であり、「新バージョンは不要」と考えています。つまりマイクロソフトにとって最大のライバルは「旧バージョンのMicrosoft Office」です。

果たしてこうした旧バージョンのユーザーまでが、こぞって新バージョンへ移行してくれるかといえば、それは明らかにノーでしょう。これまでと同様に少しずつ製品を進化させ魅力を上げ続けるほかありません。残念ながら、マイクロソフトにとって最大のライバルである過去の自分との戦いは、引き続き困難なものであり続けることになりそうです。

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