壮大な実験は始まったばかり。ネットは自立したジャーナリズムを育み得るか
人気コラムニストが率先してネットメディアを立ち上げて急成長する一方で、先日、解雇された新聞記者達がネットメディアを立ち上げるというニュースが報道されました。最近では新聞記者だけでなく、科学ジャーナリストたちも仕事を失いかけているそうです。
また、米Six Apartは昨年末から、解雇されたジャーナリストたちに無料でブログのアカウントとサポート、それに広告ネットワークへの加入やプロモーションなどをセットにした「TypePad for Journalists」というサービスの提供を開始しました。
理由はどうあれ、多くのジャーナリストたちがネットを使って自分たちのメディアを立ち上げ、自立の道を模索しはじめています。しかし、まだジャーナリストたちのネットメディアがビジネスとして持続できるのかどうかは分かりません。新聞社やテレビ局といった従来のジャーナリズムを支えていた枠組みが崩れて、それをネットが別の形で再構築するという壮大な実験が始まったばかりなのです。
しかしこの実験は、ジャーナリスト自身がメディアを作り経済的に自立するチャンスとして、非常に重要なことだと僕は思っています。
独立性や客観性には経済的自立が不可欠
ジャーナリズムの基本となる独立性とか客観性といったものは、ジャーナリストの良心や能力と同じように、彼ら自身やその組織が経済的に自立することが不可欠です。経済的に自立していてこそ、内外の圧力に負けずに報道できたり、時間やコストを掛けた報道ができるというものです。
しかしいままで多くのジャーナリストたちは、あまりお金のことについて考えてこなかったはずです。考えてこなかったどころか、一部にはお金のことを考えるべきではないといったことさえ言われていたと聞いています。
それが、自身がメディアを立ち上げることで、そういったことに責任を持って関わらざるを得なくなります。僕が思う、ジャーナリスト自身がメディアを持つことの重要性の1つはそこにあります。ジャーナリストが独立性や客観性を大事に思うのなら、それを維持する仕組みが経済的に自立しうるかどうかを意識することは(当然とはいえなくとも)重要なことだと思っています。
そしてもし、こうした自立したメディアが可能ならば、ジャーナリストはこれまでの大きな組織の論理に縛られず、以前よりさらに自由に良心に基づいた発言できる権利を手にすることができるはずです。これが僕が思う重要性の2つめです。
もちろん、ジャーナリスト自身が経営に関わることはすなわち、ビジネス上の利害関係に巻き込まれやすくなるという危険性もあるため、いい側面ばかりではありません。やはり経営と編集は分離すべきだという意見にも反対はしません。本当にそれができるのならば。
ジャーナリスト自身が自分の発言を確保できるだけの経済的に自立したメディアを誰でも持つチャンスがある、ということは、過去に例のないことだと思います。僕自身はその可能性の中に希望をみているつもりです。
成功も失敗も積み重ねて
国内に目を向けてみると、ITジャーナリストの佐々木俊尚氏は有料のメールマガジンを発行しています(僕も読者として購読しています)。数カ月前、佐々木さんにお会いしたときに聞いたところ、うまくいっているようでした。
逆に、(ジャーナリズムの例とはいえないかもしれませんが)オーマイニュースのようにすでに失敗してしまった例もあります。JanJanやMyNewsJapanのようにチャレンジを続けているメディアもあります。これから日本でどこかの新聞社がもし倒産したら、米国のように野に下りメディアを作るジャーナリストが大量に登場して、さらにチャレンジする人たちが増えるかもしれません(想像しにくいことではありますが)。
当然、成功する例と失敗する例はこれからも次々に登場してくることでしょう。その積み重ねによって少しずつ強固で新しい形のジャーナリストたちメディアたちが、ネットで増えてくるといいなあと思っています。
というか、僕自身がそのネットでメディアを作るという実験に身を投じている立場なのです。だからそうなってくれないと困る、というのが本音です。
多くの同業者たちの成功を祈っています。