仮想化の新標準「OVF」登場、OSなんてどうでもよくなる、かも
ほとんどメディアで報道されていないようなのですが、仮想環境の標準化を進めている団体DMTF(Distributed Management Task Force)が3月23日、仮想マシンフォーマットの標準であるOVF(Open Virtualization Format)を発表しました。今後のソフトウェアに大きな変化をもたらすであろう標準の登場です。
OVFは仮想マシンファイルフォーマットの標準です。要するに、ヴイエムウェアのVMWareでもサン・マイクロシステムズのVirtualBoxでも、マイクロソフトのHyper-Vでも、シトリックスのXenでも、この標準に沿えばどのハイパーバイザーでも動作する仮想マシンファイルが作れるのです。
それがどうしたって? これによってOSもクラウドも大きく変わる可能性があります。
バーチャルアプライアンス、インストール不要の世界
DMTFが公開しているホワイトペーパー(PDF)を読むと、OVFの狙いが分かります。
OVFが作られた最大の目的は「バーチャルアプライアンス」(Virtual Appliance)の実現です。バーチャルアプライアンスとは、OSとインストール済みのアプリケーションをまとめて仮想マシンとしてパッケージすることにより、ハイパーバイザーの上にこのパッケージをロードするだけですぐに利用を開始できるという、ソフトウェアの新しいパッケージ形態です。
Oracleのようなデータベースサーバ、MovableTypeのようなCMS、メールサーバ、財務処理のソフト、なんでもかまいません。まるでスイッチをオンにすればすぐに動かせる専用機のような感覚で、ソフトウェアのパッケージを作れるようになります。これが「バーチャルアプライアンス」です。
ユーザーにとってはファイルをハイパーバイザーにロードすればすぐに動作するため、インストールの手間がなく、OSのバージョンも気にすることがない、という利点があります。
一方、ソフトウェアベンダーは、顧客のOS環境やインストールの失敗などを気にする必要がなくなり、サポートも省力化できるという利点があります。
OSのシェアはどうでもよくなる
しかも顧客がそのソフトウェアを利用していて「もうちょっと高い性能がほしいな」と思ったら、もっと性能が高いマシンのハイパーバイザーに移し替えればいいのです。仮想マシンのツールを使うことで、稼働中であっても動的に移動することだってできるでしょう。
OSにとってはどうでしょう? パッケージはOS込みで顧客に提供されますから、顧客がどのOSを利用しているのか、どのOSのシェアが高いのか、といった判断はソフトウェアベンダーにとってどうでもよくなります。あるいは、アプリケーションに最適な専用OSを作って一緒にパッケージングしてもいいのです。いやむしろそのほうがアプリケーションにとって好都合かもしれません。
こうなれば従来のOSの地位、シェアが高いとか、対応アプリケーションが多いとか、そういったものによるメリットは完全に失われないにしても、大きく損なわれていくことでしょう。一方で、配布するためのライセンスが柔軟か、カスタマイズしやすいか、コンパクトなのか、といった別の側面が注目されることが予想されます。これからのOS、特にサーバOSは、アプリケーションのコンテナとしての最小限の役割で十分だ、ということになるかもしれません(クライアントアプリの場合はGUIの統一などがあるのでOSがバラバラだと使いにくそうなので、サーバほど自由に選択できないかもしれませんが)。
参考記事
マイクロソフトがLinux用のデバイスドライバを開発し、GPLの下でオープンソースとして公開した、というニュースが報道されています。
クラウド対応パッケージソフトも
さらに今後、クラウドがOVFに対応したとしたらどうでしょうか? 実はOVFにはマルチ仮想マシン環境を1つにパッケージすることもできます。例えば、データベースサーバとアプリケーションサーバとWebサーバという3ティア構造をそれぞれ別の仮想マシンで動作させる環境を1パッケージにできるのです。
これを利用すれば、クラウド上に分散して動作するアプリケーションをパッケージにすることもできるはずです。クラウド対応パッケージの登場です(まるでAmazon EC2のAMIのすごいやつがどのクラウドでも動作するみたいなものです)。
クラウドが仮想マシンに対応することは、サン・マイクロシステムズ社長のジョナサン・シュワルツ氏がブログで表明しており、今後の1つのトレンドになることは間違いないでしょう。
OVFを策定したDMTFには仮想マシンベンダー大手がすべて参加しており、それぞれのハイパーバイザーがOVF対応を完了するのはそれほど時間がかからないとみられています。今後のソフトウェア業界を大きく変える可能性を持つ「OVF」。ぜひ多くのソフトウェアベンダーに気にとめてもらいたい標準仕様です。
参考記事
仮想化の重要な機能であるライブマイグレーションの機能はクラスタのコールドスタンバイのように使えるのですが、それだけではなくて企業のITシステムをクラウドと連携させるのに使えるのではないでしょうか。
主要な仮想化ベンダが集まる団体DMTF(Distributed Management Task Force)による仮想化ファイルフォーマットの標準規格「OVF(Open Virtualization Format)が発表されました。