インテルとMSによる「ネットブックの制約」は緩和されるのか?
新興メーカーであるアスースが切り開いたネットブックというカテゴリ。現在ではヒューレット・パッカード、デル、東芝、NEC、Lenovoといった主要メーカーからも製品が登場し、確固たるPCのローエンド市場を築いています。
これまでネットブックは個人向けの安価なPCという位置づけで販売されていましたが、このところメディアでは「ネットブックは企業でも採用されるか?」について書かれた記事が掲載されるようになりました。
ネットブックは企業向けに採用される可能性があるのでしょうか? いくつかの記事を追ってみましょう。
2月17日付けでCOMPUTERWORLD.jpに掲載された記事「大論争!ネットブックはビジネス・ユースに不向き? 小・中規模企業では人気上昇中では、メールやWebの閲覧のためなどに導入している企業の例を紹介しつつも、本格的な企業での採用はないだろうというアナリストの話を紹介しています。
ネットブックは大規模企業の"生産性向上ツール"となり得るのだろうか。アナリストたちの答えは「ノー」。小・中規模企業であれば、その可能性は十分にあるが、「ビッグ・ビジネスの厳しい要求にはこたえられない」というのが大方のアナリストの見解のようだ。
5月25日付けで@ITに掲載された記事「企業にネットブックの居場所なし ネットブックは企業市場に食い込めるか?」も、タイトルが示すとおり、企業のネットブック採用にはネガティブです。
確かに、ネットブックはWebサーフィン用としては素晴らしいデバイスだ。また、電子メールの送信や簡単なドキュメントの作成といった基本的なタスクを実行することもできる。しかし重要なエンタープライズアプリケーションを開こうとする段になったとき、ネットブックの実用性は著しく低下することになる。ノートPCやデスクトップのような能力を提供できないのだ。ビジネスの世界ではノートPCはWebサーフィン用のオモチャではない。
アナリストに指摘されるまでもなく、ネットブックを仕事に使おうと思うときに問題となるのが、画面の小ささと限られた性能です。上記の2つの記事でも、その点を大きな理由として指摘した上で「ネットブックはビジネスに向かない」としています。
では、ビジネス向けに大きな画面や性能のいいネットブックは作れないのでしょうか? いまのところ、その答えははっきりしています。「ノー」です。
理由は、インテルとマイクロソフトがネットブック向けの安価なプロセッサやWindowsを提供する条件として、画面の大きさやメモリ容量などに制約を課しているためです。おおまかにいえば、画面は10インチ以下、メモリは1GB以下、といった制約です。
両社は明確に、企業向けのPCは高く売りたいと考えているのです。
5月27日付けのITProに掲載された記事「「企業にこそネットブックを」、外資メーカーと販社が気炎では、そうした制約をPCメーカー自身も自覚しており、インテルとマイクロソフトに規制緩和を嘆願している、と伝えています。
パネル討論に参加した各社は、いずれも本社レベルでマイクロソフトとインテルと交渉し、制約を緩和するよう訴えているという。「世界レベルでマイクロソフトとインテルに交渉している。どこまで制約を撤廃できるかは言えないが、何らかの妥協点が見つかると期待している。競合他社と協調して状況を変えていきたい」(レノボの松本マネージャー)。
インテルのバイスプレジデントであるアナンド・チャンドラシーカ氏はこうしたメーカーの動きを牽制した発言をしているようです。4月9日付けのCNETの記事「インテル、ネットブック人気への警戒感を示す--ノートPCとの差別化を提唱」から引用。
要するに、Intelのシニアバイスプレジデント兼Ultra Mobility GroupゼネラルマネージャーであるAnand Chandrasekher氏が、北京で開催された「Intel Developer Forum(IDF)」の基調講演(Intelの公式サイト上でストリーミング配信された)で語ったところによれば、そもそもネットブックというものは、大人のユーザー向けの製品ではないという。
現在のネットブック市場を見渡してみると、WindowsとAtomプラットフォームのひとり勝ち(ふたり勝ち)の状態です。市場のコントロールに成功しているインテルとマイクロソフトが、ネットブックの規制について妥協してくる可能性は低いでしょう。
この現状を変えるとしたら、彼らにプレッシャーを与えられるような競争状態を発生させることが重要で、潜在的にその能力を最も備えているのメーカーの筆頭はアップル・コンピュータだと思われます。可能性はそれほど高くないと思いますが、来月に行われるアップルの開発者向けカンファレンスでネットブック対抗の低価格Macが登場するようなことがあれば、マイクロソフトにとってはプレッシャです(低価格Macのプロセッサはインテルが提供することになるでしょうから、インテルにとってはハッピーでしょう)。
そうなれば、ネットブック市場の現状のパワーバランスが崩れて、なにかが起こるかもしれません。