IT業界のピラミッド構造とその弊害を推測する
日本のIT業界、特にシステム開発に関連する案件では、プライムと呼ばれるNTTデータや野村総合研究所、富士通、日立、NECといった大手の企業が元請けとなり、その下に中堅、中小が連なるプラミッド構造になっている、とはよく言われることです。
ピラミッド構造は大規模案件だけでなく、中小の案件でも元請けと請負、派遣などによって構築されることは珍しくないとも言われています。
このピラミッド構造はどれくらい根が深いものなのでしょうか? それを経済産業省の統計から推測した資料を先日拝見することができました。とても興味深い内容でしたので紹介したいと思います。
派遣の受入れ数は派遣数のなぜか4倍
経済産業省が定期的に行っている「特定サービス産業動態統計調査」は、調査対象となるサービス産業の売上高などの動向などから景気や雇用動向の判断材料にするとともに、産業構造政策、中小企業政策のための資料とするために行われている調査です。
調査方法としては、売上高のおおむね7割をカバーするようにサンプル企業を抽出してアンケートを依頼し、約80%の回収率だとのこと。調査は毎月行われています。
この調査結果の中から情報サービス業の長期データを見てみましょう。2008年度(平成20年度)の情報サービス業の調査対象企業の売上高合計は、約10兆9458億円。うち、ソフトウェア開発/プログラム作成が7兆8920億円など、調査結果には興味深い数字が並んでいます。
こうした調査結果の中で注目したいのは、「他の企業への派遣従業者(延べ人日)」と「他の企業からの派遣受入れ従業者(延べ人日)」です。
他の企業への派遣従業者(延べ人日) | 323万5327人日 |
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他の企業からの派遣受入れ従業者(延べ人日) | 1208万3342人日 |
他の企業への派遣人日が延べで323万人日強なのに対して、派遣受入れ人日は延べで1208万人日強と約4倍になっています。ちなみに、この2つは情報サービス業だけにある項目で、ほかの業種、例えばエンジニアリング業、広告業、クレジットカード業などを見てもこの項目はありません。また、調査票を参照すると明記されていますが、この両項目は「情報サービス業務に係る」ものとされています。つまり、情報サービス業に係わる仕事の範囲内で、派遣されている数の4倍もの人が受け入れられているのです。
なぜでしょうか?
複数回の受入れが発生している理由
ここにピラミッド構造の一端が表れているのではないか、という推測が可能です。つまり、A社が派遣したエンジニアをB社が受入れ、それをC社の仕事に派遣すると、A社が派遣したエンジニアは2回受け入れが発生していることになりダブルカウントになります。二重派遣は禁止されていますが、事実上の二重派遣のようなものは現場で発生していますから、このようなことが繰り返されることで、派遣人数よりも4倍近い受入れ人数が統計上発生することを説明できそうです。
改めて計算してみることにします。
派遣受入れ 1208万3342人÷ 派遣 323万5327人 ≒ 3.735
ここから1を引いた2.735が、ITエンジニアが再派遣されている回数です。これが0よりもずっと大きいということは、何度も再派遣が繰り返されているということであり、つまりはピラミッド構造が存在する証明のようなものだと考えられます。
人件費が膨らむ
さらに推測を重ねてみましょう。ITエンジニアを派遣する価格が原価に対して20%を上乗せして設定されると考えたとき、1人のエンジニアが平均2.735回派遣されたとすると、最終的な価格は以下で求められますよね。
1.22.735 ≒ 1.65
つまり最終的な顧客が負担している人件費は、元のエンジニアの価格の約1.65倍に膨らんでいると推測できます。
これを顧客の面から見ると、ITのために必要な人件費の見積もりはもっと安くできる、と思えますし、一方でITエンジニアの側から見れば、支払われた人件費の3分の1以上が中間業者によって搾取されている、とみることもできます。
このような顧客とIT業界の双方にとって弊害であるような構造がIT業界にあるのであれば、両者が協力してこのピラミッド構造を解体していくことで、IT業界を含めた産業がより効率的で働きやすいものになるのではないかと思います。特にピラミッド構造の上位にいる企業の責任と果たす役割は大きいのはないでしょうか。
今回のエントリは、Plan A LLPの青木氏から見せていただいた資料を基に構成しました。
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