「メインフレームは理想のクラウド用データセンター」だ、とIBMがいい始めた
米IBMが世界最大のデータ分析を行うBI(Business Inteligence)用プライベートクラウドを構築し、社内利用を開始すると発表しました。このクラウド構築技術を商品化し、顧客にも提供する予定とのことです。そしてその実体は「メインフレーム」でできています。
メインフレームとCognosで構築された世界最大のデータ分析クラウド
「Blue Insight」というコード名で呼ばれるこのIBM社内のプライベートクラウドは、48プロセッサを搭載したメインフレームSystem z10と、昨年買収したBIベンダーであるコグノスのソフトウェアによって構築されており、IBM社内の100近いデータソースから集め られた1ペタバイト以上のデータに対応。
その処理能力はIBMいわく「the equivalent of more than 300 billion ATM transactions.」(3000億台以上のATMに等しい)ほどの膨大なものです。
IBMはこの世界最大のデータ分析用プライベートクラウドを構築したノウハウを基に、System zメインフレームとコグノスのCognos 8 BIによって顧客のプライベートクラウド構築を支援する「IBM Smart Analytics Cloud」を提供します。
メインフレームによるクラウド?
米国のメディアは先行してこの「IBMが世界最大のクラウド構築」というニュースを報道し、日本でも報道が始まっています。
- IBM、ビジネスアナリティクスクラウド「Blue Insight」を発表へ:ニュースクリップ - CNET Japan
- IBM and AT&T Unveil Cloud Computing Services - Business Center - PC World Business Center
- IBM Furthers Investment In Business Analytics With Smart Analytics Cloud - Tech Crunch
- AFP: IBM makes Big Blue cloud
しかしこのニュースはメインフレームの大規模事例とはどこが違うのでしょうか? いつの間にメインフレームはクラウドのプラットフォームになってしまったのでしょうか。
少し調べてみると、IBMはメインフレームはクラウドの差別化として使える、という説明をしているページを見つけました。
この資料からポイントを引用します。
The mainframe's leading virtualization capability makes it an obvious choice for cloud computing workloads. With the ability to rapidly provision 1000s of virtual Linux servers and share resources across the system, the mainframe supports the capacity of an entire data center in a single system.
メインフレームの先進的な仮想化機能は、クラウドコンピューティングのワークロードに合致する選択肢です。1000もの仮想Linuxサーバを迅速に用意でき、システム間のリソースを共有可能、メインフレームなら1台のシステムでデータセンター全体のキャパシティをサポートできます。
つまり「メインフレーム=クラウド用データセンター」という考え方のようです。
The mainframe is an ideal platform for achieving operational efficiency in the cloud computing data center. With System z's unique virtualization capability and a "share all" design principle for system components, the components in the data center can be reduced by 90% for massive simplification. Total operating costs can be significantly reduced while achieving greater volume.
メインフレームはクラウドコンピューティング・データセンターとして効果的な運用を実現するのに理想的なプラットフォームです。Sysmtem zでは、独創的な仮想化と、システムコンポーネントが「すべてを共有する」という基本設計を備えており、データセンターの90%を大規模にシンプル化できます。これにより、トータルの運用コストを劇的に低下できるでしょう。
またIBMは「IBM System z Solution Edition for Cloud computing」というメインフレームのクラウド用エディションの提供も始めています。
つまりIBMは、メインフレームこそ企業向けのプライベートクラウドに適したプラットフォームだとアピールしているのです。今回発表された「世界最大のプライベートクラウド」も、メインフレームでクラウドを実装するということを強くアピールするためのものといえるでしょう。
クラウドという用語の輪郭がまた広がった
これまでクラウドは、小規模なハードウェアを大規模水平分散した「スケールアウト」の構造が特徴の1つといわれてきました。
IBMはこのスケールアウトの象徴だったクラウドに、スケールアップの象徴ともいえるメインフレームを持ち込んで「これがクラウドに最適なプラットフォームです」といい始めたわけです(もしかしたら以前からそういっていたのかもしれませんが、今回の発表でそれが明確になりました)。
たしかにメインフレームの拡張性や圧倒的な処理能力は、その中で仮想的なマシンを並べてスケールアウトをしていくには最適でしょう。IBMが「メインフレームは最適なクラウド用プラットフォームだ」ということも理解できますし、その説明通りに効果的な利用場面も多数あるはずです。恐らく「きっとIBMはいずれそういいだすだろう」と予想していた人も多いのではないかと思います。
また、スケールアウトに対する揺り戻しとして、スケールアップのアーキテクチャが注目され、その文脈の中で「きっとまたメインフレーム的なものに注目が集まるだろう」という予想も多くの人がしていたでしょう。
しかし一方でこれは「従来のメインフレームビジネスとどう違うのだ? 単に言葉が新しいだけではないのか?」と見る人もいるでしょう。
果たして、「メインフレームが仮想化の理想的なプラットフォームである」というIBMがいい始めたことは「メインフレームを新しいマーケティング用語に包んで売ろうとしているだけだ」と見るべきなのか、それとも「スケールアウトの揺り戻しとして、スケールアップが注目され始めた兆候」とみるべきなのでしょうか。
明らかなのは「クラウド」という言葉の輪郭がまた1つ広がったことです。「クラウド」という言葉を用いたとき、そのクラウドが何を指しているのか? ベンダーも、顧客も、そしてそれを伝える側も、今まで以上に意識する必要が出てきたのではないでしょうか。