FTCによるブログの規制は従来のメディアより厳しいものに、その中身を読む
メーカーから無償で提供された製品のレビューをブログに書いたら、無償で提供されたことを読者に明示しないと罰せられる。このようなブログに対する新しい規制を米連邦取引委員会(FTC)が始めると報道されています。
- FTC、製品レビュー・ブログや有名人の推薦広告に規制を導入 : トレンド - Computerworld.jp
- メーカーからの金品贈与:FTC、ブロガーによる製品レビューに情報開示を義務付けへ - ITmedia エンタープライズ
- FTC、ブロガーによる製品レビュー記事などへの規制を発表:ニュース - CNET Japan
報道された内容では、ブログやブロガーに対する規制にフォーカスが当たっていますが、FTCが公開した改訂版の「Guides Concerning the Use of Endorsements and Testimonials in Advertising」(広告中の推奨と証言に関する指針)は、例えば有名人が「この商品は私も愛用していておすすめですよ」と発言する際に、その商品を提供している企業との関係を明示しなければならない、といった、いわゆるエンドースメント(推奨)一般についての規制をまとめたもので、テレビやラジオ、雑誌や新聞、それにクチコミなどに関してもカバーするものです。
この規制の例として最初に載っているのは、映画評論家の発言を引用して広告に掲載するケース。これは推奨に該当し、引用の際には元となる発言内容をゆがめるようなことをしてはいけない、とあります(255.0 Example 1)。
また、タレントが家庭用フィットネス機器をインフォマーシャル番組内で操作しながら「効果がありますね」とか「使いやすいですよ」といった発言をする際には、消費者はそれをタレントの意見として受け取る可能性があるため、たとえそれが台本に決められたセリフだったとしてもタレントはそのフィットネス機器を使ったことがなければならない、とあります(255.0 Example 6)。
今回の改訂でここにブログやブロガーが追加されたということは、ブログやブロガーが商業メディアや有名人たちと同様の影響力を持ち始め、それが無視できなくなったとも考えられます。ある意味ではブログにとっての1つの転換点としての出来事です。
では実際にブログやブロガーに対してどのような規制が行われるのでしょうか? FTCの文書を見てみましょう。
ブログの例は約40ケース中3つ
FTCが今回公開した改訂版「Guides Concerning the Use of Endorsements and Testimonials in Advertising」は、PDFで80ページもありますが、最初の54ページ分はお役所の文書らしく改訂の理由や経緯について細かく解説している部分であり、実際の本文は55ページから始まっています。
本文のポイントを抜き出してみましょう。
- 広告の中では推奨は広告メッセージの一種であり、消費者にはスポンサーとは異なる第三者からの意見や経験として受け取られることがある(255.0 a)
- 推奨は、推奨人の正直な意見や広告が反映されていなければならない(255.1 a)。
- 推奨人と広告代理店もしくは商品提供企業の関係は明示されなければならない(255.5)
また、具体的な例として全部で40近いケースが紹介されており、その中の3つがブログに直接言及した例となっています。その3つについて、英文を引用すると長くなるので、日本語の抄訳で紹介します。
例1)定期的にドッグフードを買っている消費者が、ある日同じドッグフードメーカーの、より高価なドッグフードを試してみたところ、犬の毛がやわらかくなり毛並みもつやつやしてきたように感じ、「高価なドッグフードはやはりそれだけの価値があるのでおすすめ」と、そのことをブログに書き込んだ。(255.0 Example 8)
これは規制対象としての推奨に該当しない例として紹介されています。定期的にペットショップでドッグフードを買っていれば、無償で高価なドッグフードをもらえたのかもしれません、あるいは割引クーポンがもらえたのかもしれませんが、それでもこれは規制対象の推奨には該当しないとしています。
例2)スキンケア商品の販売会社が、広告代理店のサービスに申し込んだ。このサービスでは広告代理店がクライアントに、商品のレビューを書いてくれるブロガーを紹介するもの。さっそくあるブロガーにレビューを依頼したが、その際に特にブロガーにはスキンケア商品の効能を伝えず、ブロガーからも質問はなかった。書かれたレビューは「このスキンケア商品は湿疹の改善効果があり、湿疹に悩んでいる人にすすめたい」といった内容になっていた。(255.1 Example 5)
この例は推奨に該当します。そして、事実に基づかない記述や読者へのミスリーディングの責任が、ブロガーと販売会社の両方に発生します。また、ブロガーには広告代理店からの支払いを受けていることについて明確に読者に知らせる責任があります。
例3)自分が運営するゲームブログを通じて、ゲームの専門家として評判を得ている学生。ゲームメーカーは新機種を無料で彼に提供し、それでゲームのレビューをブログに書いてほしいと依頼。彼はそれに応じてレビューを書いてブログにアップした。(255.5 Example 7)
この場合、ブロガーは製品を受け取っており、その旨を明確に読者に知らせなければならないとしています。
既存のメディアとブログは区別されている
実は、FTCのこの指針ではブログについて特別扱いしている面があり、それをFTC自身も認めています。ブログについては情報開示がより厳しくなっているのです。47ページから引用します。
The Commission acknowledges that bloggers may be subject to different disclosure requirements than reviewers in traditional media. In general, under usual circumstances, the Commission does not consider reviews published in traditional media (略) to be sponsored advertising messages. Accordingly, such reviews are not "endorsements" within the meaning of the Guides.
委員会はレビューの情報開示についてブロガーと従来のメディアとでは扱いが違っていることを認めます。一般的に、従来のメディアのレビュー記事がスポンサーの広告と見なされることはないでしょう。よってこれは推奨には該当しないと考えています。
扱いの違いを具体的に説明した箇所が見つからなかったのですが、おそらくここで言っているのは、上記の例3で書いたように、レビューの対象を無償で提供されたりした場合、ブロガーはそのことを明示する義務がある一方で、従来のメディアについてはそうした義務についてガイドライン中に書かれていない、という点でしょう(少なくとも明示している箇所を見つけられませんでした)。
つまりFTCはブログのレビューについてより厳しい目で見ているのです。
しかし従来のメディアであっても、企業から提供された機材やソフトウェアやサービスによって特定の記事が書かれたのであれば、ブロガー同様にそれを明示すべきだと思います。ことに、従来のメディアもオンラインでブログを展開しはじめており、ますますブログと従来のメディアは境界線が見えなくなっています。
次にこの指針が改訂されるときには、ブログだけが特別扱いされるということはなくなっているべきだし、おそらくそうなっているのではないかと予想します。
あわせて読みたい
ウォーターフォールからアジャイルに向けて動き出す米国防総省のIT調達
≪前の記事
カラムナデータベース(列指向データベース)とデータベースの圧縮機能について、マイケル・ストーンブレイカー氏が語っていること