セールスフォースのFree Editionは、あえていえばセールスフォース的Google App Engineだ!

2009年6月17日

セールスフォース・ドットコムは、同社のクラウドであるForce.com上でのアプリケーション開発と運用、公開を無料で行える「Force.com Free Edition」の提供を米国で6月15日から開始。これにより、誰でもセールスフォースのインフラを使って無料でアプリケーションを開発、公開することが可能になりました米国のみ。日本では未発表です日本では2009年9月に正式発表されました)。

Force.com Free Editionの申し込みページ

グーグルのGoogle App Engineが一定の条件の下で自由にアプリケーションの開発、運用環境を提供しているように、セールスフォースも同社のクラウド環境を無料で提供しはじめたということです。言ってみれば、セールスフォース版のGoogle App Engineがはじまったと言えます。

Force.comは同社のアプリケーション「Salesforce CRM」などが稼働するクラウドの名称です。同社はこのForce.comをアプリケーションプラットフォームとして公開しており、オブジェクトの作成や画面のカスタマイズ、Javaに似た独自言語Apexによるプログラミングなどでさまざまな独自アプリケーションの開発が可能となっています。

Force.comにはこれまでも「開発者向け無料アカウント」はありました。今回の「Force.com Free Edtion」はそれとどこが違うのでしょう?

いつもセールスフォースの最新情報を紹介してくれるブログ「セールスフォースとクラウド/SaaS」のエントリ「Force.com 100ライセンスが無料にっ! - Force.com Free Edition」や、Force.com Free Edition FAQのページなどが参考になります。

無料で100ユーザーまで利用可能

これまでの開発者向け無料アカウントは、基本的には文字通り開発者のためのお試しアカウントで、開発することはできてもそれを利用するには有料アカウントが必要でした。

今回のFree Editionでは、開発者1アカウントで開発できるアプリケーションは1つであるものの、そのアプリケーションは100ユーザーまで無料で利用可能になっています。開発者は、ストレージは1GBまで、カスタムオブジェクト(リレーショナルデータベースのテーブルのようなもの)は10まで利用可能です。

これはざっくり言って、社内ユーザー100人までを想定したシンプルなアプリケーション。例えば、顧客からの問い合わせ対応、経費精算や社内申請や、もう少し複雑なアプリケーションなら十分といえる内容でしょう。

さらに、Force.com Free Editionと同時に発表されたのが、Force.com上にオープンなWebサイトを構築する機能の「Force.com Sites」です。Force.com上のアプリケーションと連係した公開用のWebサイトの構築が可能になります。

例えば、前述の顧客からの問い合わせ対応アプリケーションと連係した公開Webサイトなどが想定できます。有料アカウントでSalesforce.com CRMを利用していれば、そのCRMと連係したWebサイトも開発可能で、顧客とのさまざまなコンタクト機能を組み込んだWebサイトが実装できそうです。しかもWebサイトの運用もクラウドにおまかせです。

ただしForce.com Free EditionでForce.com Siteを利用する場合、月間25万ページビューが上限となります。

開発者の争奪戦がはじまる

セールスフォースは設立当初から、自社開発したCRMやSFAのアプリケーションをSaaSとして提供することにより成長してきました。同社が発足して10年。今回の発表からは、同社の戦略がSaaSによるアプリケーションの提供から、クラウドをベースとするプラットフォームベンダへと変化していることがうかがえます。

つまり、同社のクラウド上に開発者を巻き込むことでForce.comに対応したアプリケーションを増やすことが、今後の同社のクラウドの価値向上に重要だと考えたのでしょう。

グーグルは、Google App EngineにJavaVMを搭載することで、これまでにない多くの開発者を同社のクラウド上に引き寄せることに成功しました。また、マイクロソフトは、Windows Azureの上で自社製のCRMをコアとした新しいアプリケーションプラットフォームを構築しようとしていると伝えられていますし、Windows Azureの開発にVisual Studioを使えることが魅力の1つとなっています。アマゾンは、Amazon EC2のうえで簡単に分散アプリケーションを開発できるツール「Amazon Elastic MapReduce」のβ版などの提供を始めています

これらのトレンドから読み取れるのは、それぞれのクラウドにとってこれからは、いかに多くの開発者がアプリケーションを書いてくれるかが重要になってくる、ということでしょう。無料化やツールの提供はその手段の1つですし、例えば次の展開としてiPhoneのAppStoreのような開発者に魅力的なマーケットの提供を、グーグルやマイクロソフト、アマゾンがこれから展開してくるとしても不思議ではありません(セールスフォースにはすでにAppExchangeがありますね)。

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