Firefox 3.5とプラットフォーム化するWebブラウザ
先週末にMozilla関連のブログをにぎわせていたのが、Firefoxの次バージョンで予定されているFirefox 3.1のバージョン番号が、3.1から3.5に変更になるらしい、という話題でした。
その話題の源となったのがブログmozilla developer centerに投稿された「Firefox 3.1 may become Firefox 3.5」というエントリ。
日本語ではMozilla Flux、Mozilla Links、マイコミジャーナルなどが報じていました。
エントリでは、バージョン番号を3.1から3.5に変更する理由として、TraceMonkeyと呼ばれるJavaScriptエンジンの全面的な改善や、HTMLネイティブでビデオを再生できるvideoタグのサポートをはじめ、数多くの追加機能が予定されているためと説明されています。そのため、3.5に変更する「提案がされた(is proposed )」というのがこのエントリでしたが、翌日に投稿されたエントリ「Shiretoko to be named Firefox 3.5」では、タイトル通りFirefox 3.5になることが決まったようです。ちなみに"Shiretoko"はFirefox 3.1のコードネームで、あの北海道の知床にちなんでいます。
さて、Firefoxに限らずさまざまなWebブラウザでJavaScriptの高速化を競っていることは先日のブログ「JavaScriptの高速化手法とオープンソース同士の競争」で書きました。なぜJavaScriptの高速化がWebブラウザで重視されているかといえば、Webブラウザがアプリケーションのプラットフォームとして利用され始めたためなんですね。
Webブラウザのアプリケーションプラットフォーム化が事実上始まったのは、2004年のエイプリルフールに登場したGMailと、それに続くAjaxブームによってでしょう。そして現在では、メール、地図、表計算、ワードプロセッサ、プレゼンテーションツールなどさまざまなアプリケーションがWebブラウザ上で動作するようになってきているのはご存じの通りで、ネイティブなアプリケーションからWebアプリケーションへの移行は一般ユーザー向け、企業向けともに着実に進んでいます。
そうしたWebsアプリケーションを快適に動作させるために、まず取り組まれたのがJavaScriptの高速化だったわけです。
そしてWebブラウザの進化は次の段階にさしかかろうとしています。そろそろ現状のWebブラウザではプラットフォームとしての制限が目立ち始めてきているため、それを取り払おうという動きです。
例えば現状のHTML/CSSとJavaScriptでは表現力や能力が限られるため、ダイナミックなグラフィックの描画や柔軟なグラフィックの加工、ビデオ/オーディオの再生といったことは困難ですし、Webブラウザそのものに機能がないため、オフライン時のアプリケーションの実行やローカルへのデータの保存もできません。また、セキュリティ上の理由で、Ajaxのコア機能であるXMLHttpRequestはクロスドメイン通信ができないことになっています。
これらを解決するためのFirefox 3.5での実装としては、例えばHTML 5で標準化される予定のCanvas。Webブラウザの上にグラフのような図を描いたり、アニメーションを描画するような処理は非常に面倒でしたが、Canvasではそうした処理がJavaScriptで簡単かつ柔軟にできるようになります。グラフィックやアニメーションを豊富に用いたアプリケーションの登場が期待されます。
同じくHTML 5で予定されているオフラインアプリケーションの機能も実現される予定です。いままでオフライン機能はGears(旧Google Gears)がほぼ唯一の実装でしたが、Firefox 3.5ではネイティブに実装される予定。オフライン時でもWebアプリケーションを使い続けられる環境が実現します。
そのほかドラッグ&ドロップAPI、JSONネイティブサポート、クロスサイトXMLHttpRequestなども実装予定です。
こうした前進の背景にはHTML 5の標準化が進んでいることがあります。そのおかげでFirefoxだけでなく、SafariでもChromeでもOperaでもInternet Explorer 8でもここに挙げたような実装が進行中です。
実装が進むことで、Webブラウザ(あるいはHTML/CSS/JavaScriptというWeb標準)は、本格的なアプリケーションプラットフォームへと大きく進化していくことは明らかです。いままでWebアプリケーションは、ネイティブアプリケーションに比べると適応分野も規模も機能も簡易なものにとどまっていましたが、今後はそうした差が一気に縮まっていくことでしょう。いまは注目すべきタイミングにきていると思います。
当初は昨年中にもリリースされる予定だったFirefox 3.5、開発が遅れているとはいえ数カ月以内にはリリースされるはずです。もちろんほかのWebブラウザの新バージョンも登場することでしょう。今年2009年は、Webブラウザが本格的なアプリケーションプラットフォームとして大きな進歩を遂げた年だったと、GMailが登場した2004年のように記憶されていくかもしれません。