Amazon Web Services、登場からちょうど10年。東京リージョン開設から5年
クラウドコンピューティングがいつ始まったのかについては、世の中に明確な定義があるわけではありません。ここで3つの候補を時代順にあげるとすれば、1つ目は代表的なクラウドサービスの1つであるSalesforce.comがサービスを開始した2000年。2つ目はAmazon.comがAmazon Web ServicesのサービスとしてAmazon S3を開始した2006年3月。そして3つ目は当時Googleのエリック・シュミット会長がネットの向こう側にあるサービスを「クラウド」と呼んでいると発言し、クラウドという言葉が広まるきっかけとなった2006年8月です。
偶然にも2006年に3つのうち2つが入っていることもあって、2016年はクラウドが登場して10年と言っていいのではないでしょうか。
Amazon S3の登場からちょうど10年
そしてちょうど今日2016年3月14日は、2006年3月14日にAmazon Web Servicesの実質的なローンチとして「Amazon S3」が登場してちょうど10年の節目です。
これにあわせてAmazon Web ServicesのVP and Distinguished EngineerであるJames Hamilton氏が「A Decade of Innovation」というブログを投稿(Amazon Web Services ブログによる日本語訳)し、Amazon.comのCTOであるWerner Vogels氏も「10 Lessons from 10 Years of Amazon Web Services」という記事を自身のブログに投稿しています。
Hamilton氏の記事「A Decade of Innovation」では、まだマイクロソフトの子会社にいた同氏が、Amazon S3の登場に衝撃を受けたようすを次のように記しています(日本語訳から引用します)。
アプリを書いてから動かすまで何日かかかり、デバッグとテストを延長し、月末になって、私はVisaの請求を受け取りました。もちろん、S3が非常に低コストである事は知っていましたが、すべてのアプリ開発とテストにかかった費用は3.08ドルでした。請求が間違えているのかと思いました。開発が終わっても、テストデータはS3に保存してあったのですが、次の月に受け取った請求は0.07ドルでした。
こうしてHamilton氏はAWSにひきつけられて、転職することになるわけです。
私は心底AWSに興味を持ち、2007年までユーザグループのミーティングにも参加していました。Amazonでプレゼンも実施し、最終的には2008年後半にAmazonに入社しました。
転職してからHamilton氏が感じたのは、組織のスピードでした。
AWSのエンジニアチームのメンバーとなりましたが、私の第一印象はとてもスピードが速いと、言い表せるのではないでしょうか。他の会社では、決定は素早くなされ新たなアイデアはソースコードになったとしても、最終的にお客様が利用できるようになるには大陸移動と同じくらい時間がかかる、いわゆるエンタープライズITのペースになります。前職では、半分冗談で「我々はお客様が必要かどうか10年に2度リリースすればよい」と考えていました。AWSでは、機能はすぐにリリースされ、追えないくらいになっています。
一方、Amazon.com CTOのVogels氏は「10 Lessons from 10 Years of Amazon Web Services」の記事で、クラウドの提供者として学んだことを挙げています。
Looking back over the past 10 years, there are hundreds of lessons that we’ve learned about building and operating services that need to be secure, reliable, scalable, with predictable performance at the lowest possible cost.
この10年を振り返ってみると、セキュアで信頼性が高く、スケーラブルで、予測可能な性能を可能な限り低コストで提供する必要があるというサービスの開発者および運用者として学んだことが数多くある。
そしてVogels氏が挙げたのが次の10項目です。オリジナルの記事にはそれぞれについて詳しく書かれています。
- Build evolvable systems
- Expect the unexpected
- Primitives not frameworks
- Automation is key
- APIs are forever
- Know your resource usage
- Build security in from the ground up
- Encryption is a first-class citizen
- The importance of the network
- No gatekeepers
日本でもAWS東京データセンターが5周年
日本国内に目を向けてみると、2011年3月2日にAWSの東京リージョンが稼働を開始しており、今月はちょうど5周年となります。
この東京リージョンの稼働開始は、その9日後に発生した東日本大震災によって広く知れ渡ることになったクラウドによるディザスタリカバリの効果と偶然にも重なり、日本に本格的なクラウド時代の到来をもたらしたと言っていいでしょう。
ここでもAWSはクラウドの先駆者でした。AWS以外のグローバルベンダが日本にデータセンターを設置するのは、その年2011年の12月にセールスフォース・ドットコムが東京データセンターを開始するほかは、マイクロソフトもIBMもGoogleも3年後の2014年まで待たなければなりませんでした(Googleは東京ではなく台湾データセンターの設置)。
10年でクラウドがITの世界を塗り替えた
10年前の2006年がどんな年だったかというと、総理大臣が小泉純一郎氏で(9月に安倍晋三氏が一度目の総理大臣就任)、2月には堀江貴文氏がライブドア事件で逮捕され、サッカーのドイツワールドカップが開催されジーコ監督率いる日本代表が予選リーグで敗退した年でした。
10年前に、Amazon.comがマイクロソフトやIBMやGoogleをおびやかす存在になると想像した人などいなかったでしょう。5年前の2011年に日本でAWSの東京リージョンが発表された当時も、クラウドが本当に使えるものなのか、単なるバズワードで終わるのではないかといった懐疑的な声は多くありました。
そう思うと、いまから5年後、10年後のITの世界もまた、思いもよらない企業から登場した技術が新しい技術が世の中を席巻し、ITを現在とはかなり違う景色に塗り替えてしまっていても決して不思議なことではないのでしょう。