Watsonのアドバイスを人間は信じることが出来ますか? IBM リサーチストラテジー、バイスプレジデントのザカリー・レムニオス氏に聞く
いわゆる人工知能の1つであるコグニティブコンピューティングは、日本でも企業のシステムの一部として採用が始まろうとしています。コグニティブコンピューティングとは、既存のシステムとどのような点が異なるのでしょうか?
元ペンタゴンの科学者で、現在はIBMにおけるワールドワイドの研究所のバイスプレジデントとして同社の研究の方向性などを担当するザカリー・レムニオス(Zachary J. Lemnios)氏が来日。インタビューの機会を得て、コグニティブコンピューティングの特長や社会に与えるインパクトなどについて聞きました。
コグニティブコンピューティングは人と対話できる
──── コグニティブコンピューティングが、ビッグデータやアナリティクスと違うところはどういったところですか?
レムニオス氏 コグニティブコンピューティングのユニークな点は、人と対話できるところです。人のレベルで、人のスピードで対話できるというのがユニークなポイントとなります。
そしてコグニティブコンピューティングは、膨大な量のデータの分析を人間にとって自然な形のやりとりで行うことができます。
例えば、病院で働いている医者がいるとしましょう。彼は一週間で4つくらいの論文なら読めるかもしれません。しかし現実には毎月2万もの論文が発表されており、とても一人の人間が読みこなせる量ではありません。そこで、こうした情報を理解できるコグニティブシステムによって、最近の研究結果をフィルタリングして引き出す、といったことができます。
そうすることで医者に最新の洞察(インサイト)を提供できるのです。さらに時間を掛けて対話していくと、システムはその医者のこと、そして患者のことも学んでいき、システムがカスタマイズされていきます。
また、インドのチームでは生徒にパーソナライズされた教育システムを構築しています。システムはそれぞれの生徒の能力を理解し、生徒ごとに適した教材を適切なタイミングで提示できるのです。これはまるで先生や親御さんが生徒にしているようなことです。こうした教育をもし大規模に推し進めていったら、世の中が大きく変わるかもしれません。
──── 従来のシステムは、人間がコンピュータに理解できる形でデータを入力しなければなりませんでした。コグニティブコンピューティングでは、文献や医療の画像や、人間の言葉をそのまま認識できるということなのでしょうか?
レムニオス氏 そうです。まさにそこがコグニティブシステムのカギなのです。テキストや画像をそのまま見て理解でき、人の言葉に耳を傾けることができます。
コグニティブコンピュータの正しさを、人間が信頼することはできるのか?
──── 人間には処理できないほど膨大なデータを処理するコグニティブコンピュータの正しさを、人間が信頼することはできるのでしょうか。例えば、あるときWatsonに「どのコンピュータを買えばいい?」と相談したときに「IBM製がいいですよ」という答えが返ってくるとしたら、その答えにIBMのバイアスが掛かっていないと信じることはできるのでしょうか?
レムニオス氏 ええ。なぜその答えなのか、Watsonに聞くことができます。また、実はWatsonPathsという製品があります。これはすばらしいもので、例えば医療に関するある情報を推奨したとき、なぜその推奨案に至ったのかという内部の推移、なぜその答えにたどり着いたかも見せてくれます。
──── Watsonは多国語展開していますよね? Watsonの考える部分とは別に、複数の言語を操る能力が組み込まれているのでしょうか?
レムニオス氏 そんなシンプルなものではありません。言語の翻訳とは文化的な理解や推論が含まれるため、言葉をただ変換するわけではないのです。もしそうならアドオンすればいいのですが、大事なのは文脈を変換するところにあり、それは文化的なニュアンスまで含めて理解しなければならないのです。それこそ人間の優秀な通訳がしていることです。
そして私たちが構築したコグニティブシステムは人と交流しながら最終的にバリューを提示できなければなりません。それはアドオンではなくアーキテクチャ寄りの機能になります。
東京に最高の翻訳研究チームがある
──── ということはWatsonは先進国の言語対応に絞られるのですか?
レムニオス氏 そんなことはありません。実は、いまさまざまな言語に取り組んでおり、実はその中心的な研究はこの東京で行われています。ここに最高の翻訳研究チームがあるのです。言葉だけではなく、例えば障害者との対話、さまざまな文化間のやりとりなども研究しています。
新しい言語をコグニティブシステムが学べるでしょうか、人間の子供なら出来ますよね。あるいはコグニティブシステムが新しい言語を作り出すことはできるでしょうか、いつかできるようになるかもしれません。ということで、まだ取り組みは始まったばかりですが、私たちはとても遠大なことを考えています。
これは社会にとっても、業界にとっても、途方もなく大きな取り組みの第一歩です。
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