Google Compute Engineはエンタープライズ市場でどれだけ戦えるか?
グーグルが6月に発表したIaaS型クラウドサービスの「Google Compute Engine」は、エンタープライズ市場を狙ったもの。7月10日に都内で行われた記者会見で、米グーグルのGoogle Enterprise 新製品担当ディレクター シャイリッシュ・ラオ(Shailesh Rao)氏はそう明言しました。「過去にIaaSを提供しないと言ったことはあったが、状況は変わり、多くの顧客がIaaSを求めるようになった」(ラオ氏)。
シンプルなIaaSクラウドを高性能低価格で提供
エンタープライズ市場に向けたGoogle Compute Engineの強味としてラオ氏が挙げたのは、主に以下の3点でした。
- スケール。Google I/Oのデモでは数万コアを実際に稼働させた。
- 価格性能比の高さ。競合他社より50%優れている。
- 信頼性。Google Compute Engineはほかのグーグルサービスと同じインフラを用いており、つまりこれが落ちるということは、グーグルのクラウドビジネスのダメージではなく、グーグルそのものへのダメージとなる。それだけ高い信頼性を約束する。
また、既存のグーグルのサービス、例えばBigQueryやGoogle App Engine、Cloud SQLやGoogle Mapsなどとの連係も強味だとしました。
こうした説明を含めてGoogle Compute Engineを概観すると、仮想マシン、ストレージ、REST API経由の管理などシンプルな機能のIaaSを高性能低価格で提供しよう、というモデルに見えます。
グーグルはOracleをサポートするのか?
シンプルで高性能低価格なIaaSの戦略でエンタープライズ市場を十分に戦っていけるかというと、競合他社を見る限りそれほど簡単ではないでしょう。
最大のクラウドプロバイダーであるAmazonクラウドの強味は、LinuxもWindowsも対応し、かつMySQLに加えてOracleとSQL Serverをサポートするなど、業務アプリケーションをクラウド上で稼働させる上での環境を積極的に充実させている点です。Windows AzureもSQL Server互換のデータベースサービスを提供していますし、そのほかのクラウドもOracleのサポートを行っているケースが増えてきました。
しかしGoogle Compute EngineではLinuxのみ、リレーショナルデータベースもCloud SQLで提供するMySQLのみですから、既存の業務アプリケーションを移行しやすいとはいえないでしょう。
一方でGoogle Compute Engineのメリットである価格性能比や安定性、スケーラビリティがアピールする顧客としては、例えばオンラインゲームのプロバイダーのような大規模な処理能力をできるだけ低価格で調達することを重視する企業、オンラインサービスのような、オープンソース中心で構成され低コストで運用可能なクラウドを求めている企業、そして同社がデモしたように薬剤のシミュレーションのような数万コアを使って大規模並列処理をするアプリケーションを抱えている企業などがあげられるでしょう。
こうした、オンラインゲームやオンラインサービス、コマースサイトなどの顧客の方が、業務アプリケーションをクラウドで動かそうとする顧客よりも、いまのところ数も規模も大きいといえ、Google Compute Engineはまずそういう顧客を既存のクラウドと取り合う、というところからスタートするでしょう。
Google Compute Engineがローンチ時に発表したパートナーとして名前が挙がったRightScale、Puppet Labs、OpsCode、Numerate、Cliqr、MapRなどの顔ぶれを見ても、オンラインサービスベンダ向きの機能をまずは充実させる意向ではないかと想像できます。
そうしてビジネスの規模を拡大しつつ、いずれはOracleのような商用のリレーショナルデータベースのサポートや、Amazon VPCのような仮想プライベートクラウドの機能などを提供し始めるかどうかが、この先の同社のエンタープライズ向けクラウド戦略を占うポイントになるでしょう。