プログラマを一生の仕事にできるビジネスモデルで目指す未来のビジョン(クラウド時代の受託開発編)
SIビジネスの本質は保険屋であり、受託開発でアジャイル開発が失敗するのは受託開発が製造業だから。11月19日に行われた楽天テクノロジーカンファレンスでの講演「プログラマを一生の仕事にできるビジネスモデルで目指す未来のビジョン」では、ソニックガーデン代表取締役社 倉貫義人氏によるこのような示唆に富む内容が語られました。
さらに倉貫氏は、ソニックガーデンで行っているクラウド時代の受託開発の新しいモデルについても詳しく紹介しています。
同氏の講演の内容を、配信されたUstreamの動画を基にして紹介しましょう。
(本記事は「プログラマを一生の仕事にできるビジネスモデルで目指す未来のビジョン(SIビジネスの本質編)」の続きです)
なぜ受託でアジャイル開発がうまくいかないか
新規事業でやったのが、クラウドでのソフトウェア提供です。SkipとYouRoom。
ビジネス領域でいうとクラウドベンダーという領域ですね。この図では、上下が納品するかしないか(下が納品する、上が納品しない)、左右が汎用的かどうか(左がオーダーメイド、右が汎用的)。
例えば、オラクルさんのようなデータベース製品は納品型で汎用品。SIerは納品型のオーダーメイド。私たちはクラウドと言うことで納品しなくて汎用的なものを作ろうと。
クラウドベンダーでは品質管理の考え方が製造業とまったくちがうんです。
この図は左が製造業でいう品質の考え方。買った時点が最高の品質で、完成までに品質を作り込む。
右がサービス業。ものを買うのではなく利用するモデル。この場合は使う瞬間に品質を最高にしましょうと。左がクルマだとすると右がタクシー。
クラウドは確実に右側です。SIerはサービス業といいながら左の製造業ですね、要件があってこれをいくらにしましょうといって作り込む。作ったら納品して検収してもらってお金をもらうのが製造業。
僕はアジャイル開発をずっとやろうとしてきてうまくいかなかった、その謎が解けたのがこの図だったんですね。
製造業は品質を作り込むというのがあって、そこはウォーターフォールのほうが向いている。でもサービスはアジャイル開発でやったほうがいい。業種がまったくちがうんだなと納得しました。
じゃあどうするかと、それまで社内ベンチャーとしてSIerのなかの社内カンパニーをやっていましたたが、まったく業種業態が違うのにやっていくのは大変だということで、(会社を)買い取って独立したと。
IT投資のコストパフォーマンスが悪い理由
起業を決めたときに考えたこと。
前にいた会社は大きな会社で、プログラマをやっていると、自分が作ったのがお客様に届いたかどうか分からなかったんですね。そこでせっかく起業するのだから、小さな会社、社員全員の顔が見える会社にしたい。
IPOはしないと決めていて、株式上場するということは資金調達かキャピタルゲインが目的なわけですが、でもソフトウェアの会社で資金調達はそんなにいらない。キャピタルゲインは、僕自身が金持ちになりたいかというとなりたいけれども、そこをあきらめればIPOをしなくて済むと。そうしてIPOをせずに利益を出し続ける会社ができるのではないかと。
そういう会社を目指そうかなと考えています。
ビジネスモデルとしては「ソフトウェアパートナーシップモデル」というのを考えています。
新しい受託のやり方を考えようと。
IT投資のコストパフォーマンスが悪いねと。そもそもお客さんがやろうとしていることに対してすごくお金がかかりすぎている。
原因は見積もりの中に含まれるバッファが高いのではないかと考えていて、マネージャが見積もりするときにサブリーダーに聞くと、サブリーダーがバッファを積むと、で、リーダーがプログラマに見積もりを聞くと3日でできると思っても5日かかります、って言っちゃいますよね。そこでもバッファを積むと。
そうやっていろんなところでバッファが積みあがって、思ったよりもすごくお金がかかる、というのがいま起きている。
それをなんとか解決しなければいけない。で考えたのは、納品しなければいい、要件定義をしない。大手SIerさんがオーダーメイドで納品をするというビジネスだとすれば、われわれはオーダーメイドだけど納品をしない。
「オーダーメイドの受託」と「納品しない」ことの両立をどうすればいいかなというと、定額にしましょうと。月額定額でできる範囲でしましょうと。
これは顧問税理士や顧問弁護士と一緒。しかもクラウドではシステムは作って終わりじゃなくてずっと運用しなくてはいけないし、そのほうが大事。
行き着いたのはシンプルな答えで、ひとつはクラウドで使えるものに限定しましょう。作るときには本番環境、ステージング環境をAmazonとHerokuの上に作って、お客様にはURLだけをお伝えする。
ドキュメントはなくて、URLを渡して実際に触ってもらう。
それから開発と運用を分けないようにする、開発と運用を分けると納品が発生するので。そうすると引き継ぎも発生しないからドキュメントもいらなくなりますし。
生産性があがるほど給料も上がる
それをどうやってビジネスでやるかというと、そのソフトウェアが生きている限りずっと契約してくださいねと、いうモデルになっています。
月額定額だから見積もりもいらなくなる。要件はお客様がプログラマと話をすればいいですよと。途中で要件や優先順位を変えてもいいですよということができる。見積もりがないので営業のコストもマネージャのコストも下げることができる。
すると派遣じゃないかと言われるが、派遣じゃないです。お客さんのところにいって作業しない、知識労働だから働いているところや時間をお客様に見せる必要はないんです。
うちのプログラマはどこにいても仕事ができるので、ひとりはアイルランドにいて、東京と名古屋のお客さんの開発をしています。
これがわれわれの考える、余計なものを外して、コストを下げる。IT投資の価値を最大化するということです。
でコストをすごく下げることで、プログラマを雇うより安いコストでわれわれのプログラマと契約できる。
プログラマにとっては一人で一社ではなく、弁護士と一緒で一人で3社、4社と担当できる。プログラマががんばって生産性が上がれば担当しているお客様をふやして給料も上がる。というビジネスモデルになっています。
ニーズはあるのかと、ニーズはいろいろあって、これまでの社内システムは難しい、現場部門が本業がある中でITを使って自分たちの付加価値を付けようというシステムって、やっぱり要件定義できないし、お客様の反応を見ながら作っていくしかない。そこに市場があると思っています。
パラダイムシフトが起きる
このようにずっとお客さんと一緒にやっていくというモデルではパラダイムシフトがあって、バグをなるべく出さないようにするのではなく、バグが出てもすぐに直せるようにする。サーバは落ちないようにするのではなく、落ちてもすぐに復旧できるようにするとか。
それをやるために必要なのがアジャイル開発、Ruby、クラウドで、われわれはそれを強味にしています。
次の記事「プログラマを一生の仕事にできるビジネスモデルで目指す未来のビジョン(夢に挑戦できる社会にする編)」に続きます
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