仮想化エバンジェリスト「タカハシ」氏にインタビュー。なぜSIerからエバンジェリストが誕生したのか?
IT業界にはエバンジェリストという肩書きを持つ人たちがいます。その多くは大手ベンダ、アップルやマイクロソフトやIBMなどに在籍しているのですが、先月の記事「仮想化エバンジェリスト「タカハシ」氏のショートビデオが面白い」では、特定のベンダに依存しないSIerという立場で仮想化エバンジェリストを名乗る高橋優亮氏と、仮想化についての楽しくてためになるショートビデオを紹介しました。
そして今回、その高橋氏に実際にお会いしてインタビューをしてきました。SIerという企業の中でどうしてエバンジェリストになったのか? 仮想化の現在について、未来について、高橋氏はどう考えているのでしょうか?
エバンジェリストと名乗りたい、と申し出た
―― まず、ユニアデックスという企業の中で、高橋さんはどのような経緯でエバンジェリストになったのですか?
もともとユニアデックスにはエバンジェリストというポジションはありませんでしたし、エバンジェリストになるためのパスなども存在しなかったんですね。
ユニアデックスが本格的に仮想化に取り組み始めたのは2004年頃でした。私も2004年頃から仮想化の案件をずいぶんやってきて、たしかに気をつけなければいけない点はありますが、お客様が望んでいる点についてはたいてい解決できると、2006年頃には考えるようになり、本格的に仮想化を推進したいなと思うようになりました。
しかしお客様からは新しい技術だと思われているがゆえに、実際にはメインフレームの頃からある技術なのですが、IAサーバでの歴史が短いためにお客様が怖がっているところがいっぱいあるなと。
本音で言ってしまうと、仮想化のテクノロジーというのは枯れていると言ってもいい。あとは細かいところの詰めが残っている程度だと。もうそういうフェーズに入ったのだからお客様にももっと積極的に使ってもらいたい、もっとみんなにいろんなことを知ってもらいたい。仮想化をもっとドライブしたい。それを、SIerのポジションで実際に仮想化を使ったインテグレーションの案件をたくさん手がけた立場から話をしていけたらと思いました。
そういう思いがあって、2006年頃に当時の役員に「エバンジェリストと名乗ってあちこちでしゃべりたい」と申し出まして、ユニアデックスはそういうことを「いいよ」と認めてくれる会社なんですね。それでエバンジェリストと名乗り始めました。
―― それまでは普通のSIerのエンジニアだったのですか?
以前からイベントなどで話はしていましたし、いまも本職はエンジニアとしてやってますので、それほど変わっていないですね(笑)
―― ビデオではちょうどシーズン1にあたる「仮想化の落とし穴と脱出法」が終わって、新しい「Cisco UCSで行く仮想化の楽園」シリーズが始まりましたね。
ビデオのコンテンツはコストもかかりますし、SIerではそういうことにコストをかける文化もなかったのですが、シスコさんからビデオ化のお話をいただいたのでやってみようと。で、やってみたらけっこう効果があることが分かったので、これからどんどんやっていこうかなと思っています。ユニアデックスには私以外にもエッジのきいた人たちがいろいろいるので、どんどん彼らも出していこうかなと。
シーズン2ではCisco UCSを紹介しています。SIerというニュートラルなポジションでありながらCisco UCSに肩入れしているようなことをやるのはどうかなとも思ったのですが、シスコさんからどっさりお金をもらっているわけでもないですし(笑)
しかし私自身がこれ(Cisco UCS)を割と押しているのは、実際に面白い製品だからなんですよね。仮想化を長くやってきたものとしては、こういうところをうまく解決してくれる製品があるといいのに、というところにうまく合わせてきていると思います。
実際の製品はわれわれも検証させていただいてまして、もちろんいろいろ問題はでています。
でも問題が起きるのはシスコさんだけではなくて、ほかのハードウェアベンダさんのハードウェアだって検証してみるともちろん問題は起こるし、問題をエスカレーションしてベンダにあげたときに、十分な対応ばかりかというと必ずしもそうじゃないしと、SIerとしていろいろ経験しています。
そうしたさまざまな製品やベンダを経験した中で、Cisco UCSはかなりエッジがきいた面白い製品が登場してきていて、これがはまるところというのは必ずあるなと、それも大きいパイではまるところがありそうだ、というところをみんなに知ってもらいたいなと。
もちろん製品の悪口を言うことはしませんが、それでもニュートラルな立場で、お客さんの損になることがあるのなら、それはちゃんと言っていきましょうとは考えています。
新しいIT投資で仮想化を抜きに考えるのはもうなしでしょう
―― さて、高橋さん自身は仮想化についてどう思っているのでしょう?
仮想化のいちばん面白いエッジのところは終わっちゃってるなと実は思っていて、いまはデバイスの仮想化、I/Oの仮想化、ストレージネットワークの仮想化といった具合に仮想化が周辺に広がっていくところだと思います。
私は、新しいIT投資で仮想化を抜きに考えるのはもうなしでしょうと正直思っています。でも、仮想化抜きで新規システムを要望されてくるお客様もけっこういらっしゃいますね。で、なるべく「仮想化してみると、もっとサーバ買わなくてすむかもしれませんよ」という話を入れるようにと社内に働きかけています。
―― IT投資は仮想化を抜きに考えられないだろう、というのは、でもなかなかお客様には伝わらないですよね?
あるお客様の中には、 仮想化でサーバ統合をやりコスト削減が実現され、上司に評価されました、というところがあります。一方で、VMotion(仮想化されたシステムを稼働中のまま別の物理サーバへと移動する機能)ができるようになれば計画停止がなくなって休日出勤が減らせるのでVMotionができるパッケージを買ってください、と上司に提案しても「それは君たちの仕事を楽にするだけだろうと」いわれてVMotionができるVMwareを買ってもらえない情報部門の人もいたりします。
多くの企業で、IT部門にいる人たちが負担している見えないコスト、サンクコストがあるんですね。サンクコストになっている部分は経営陣には見えない、あるいは見えていても無視する、という傾向は続いているなという気がします。
例えばセキュリティ管理、運用管理、VMotionも運用管理のための機能ですが、そういうサンクコストになりやすい部分は、投資して効率化しようというチャレンジがなかなか生まれてきていません。ここをうまくやって情報部門の人たちをそういう非効率から開放して次のステップへ進めるようにしたい、これがITの仕事だろうなあと思っています。
―― そういう考えが経営陣に届くといいですね。
そうなのですが、そのときに気をつけて提案しなければいけないのは、「IT部門が楽になりますよ」というときに、それが人員削減の口実にならないようにと。SIerから見ると情報部門はお客様との大事なつなばりの部分なので、この人たちに仇(あだ)なすようなことは言ってはいけないですしね(笑)
―― 仮想化のこの先についてはどう考えているのでしょうか?
昔からいわれている話ですが、オンデマンドで必要なときに必要なだけの計算力が得られる、というのはとっても必要なことだと思っています。
でも遠距離にあるサーバに対して大量のデータを運ぶには、例えばTCP/IPの世界だとどうしても限界があって、ラウンドトリップが大きくなるとスループットが下がってしまうんですね。そういう中で、世界中にあるデータセンターのあいだでどうロードを分割してどう振っていくと、最終的なところでSLAが保てるのか、そういったことは研究分野としては面白そうだなと思っています。
個別の領域でも細かく見ていくといろいろあるのですが、ランダムアクセス性能の低いストレージは今後お話にならないなとも思っています。例えば、シーケンシャルアクセスしている仮想マシンが5台あれば、それはストレージから見ればランダムアクセスになっているわけですね。そんな状況では、もうハードディスクはボトルネックにしかならない。
そうするとSSDとかオンメモリデータベースみたいなものがスタンダードになっていくだろうと思います。あとはこれを誰がどういう値段でどういう風に展開させるのかな、という業界動向は気にしていますね。
―― 最後に、自由にメッセージをどうぞ。
前回の記事で紹介してもらったことで、SIerでエバンジェリストっていままでいなかったのかと気がつかせてもらいました。おかげで、これはちょっと面白いポジションなんだなと実感しています。
日本のSIerさんはメッセージを発信することに非常に恥ずかしがり屋さんなところがあるのですが、実際に他社のエンジニアやマーケティング担当と話をしてみると、けっこう面白い思いを持っている人はいっぱいいるんですね。
ですから、こういうエバンジェリスト的な人がもっと増えたらいいと思います。で、増えたらほかの会社のエバンジェリストと「そっちはどうよ? 俺らはこうやってるんだけど」とガチンコで戦ったりできると面白いぞと。
それから以前、どこかの記事で、最近の学生がIT業界にきたがらない理由は「IT業界がきつい」と思っているからではなくて「よく知らない」からだという記事を読んだことがあります。
だったらもっと知ってもらおうよと、IT業界はチャレンジングでクリエイティブで面白いところなんだよというのをもっと伝えていきたい。私自身、いわゆる理科系の道を上がってきた人間なので、ものづくりやソリューションを提供することは、ものすごく熱くて面白いことだと思っています。この魅力を知ってもらって、IT業界やものづくりがどれほど熱いか、かっこいいかを若い人たちに知ってもらいたいですね。
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